■GOOD AQUA■

Rotala macrandra ; versicole

ロターラ マクランドラ 斑入り
(ロタラ,マクランダ)

 

  macrandraのmacro- は“マクロ経済”などと同じ“大きい・長い”の意味。andro- は、“オスの・男の”という意味なので、両方合わせると、「男の長くて大きいやつ」という、とんでもない名前に。なので、私はこの草を個人的に「エロエロ王子」と呼んでいます。

 ちなみに、andro- には“おしべの・葯(やく)の”という意味もあるので、もしかすると、macrandoraで「長い葯の」という意味かもしれません。

 従来のノーマルタイプのマクランドラは、ロターラの仲間でありながら1980年代まで「レッドリーフ バコパ」とも呼ばれていました。しかし90年代に入る頃には「ロターラ」の名称の方が一般的になり、「レッドリーフ バコパ」という名前は使われなくなりました。一方、斑入り(ふいり)タイプのマクランドラは、流通自体がその頃(1990年前後)に始まった比較的新しい水草のため、バコパでないのにバコパと呼ばれるような辱めの過去をもっていません。最初から「ロターラ マクランドラの斑入り」というのが一般的な名称だったわけです。したがって、ベテランっぽく振る舞おうとして「レッドリーフ バコパの斑入り」などと呼んだりしたら失敗します。言うなら「斑入りマクランドラは90年頃のオリエンタル品が最初だから、レッドリーフ バコパの斑入りとは呼ばないよ」ぐらいのことを言いましょう。そうすれば、ベテランっぽく・・というか、偏執狂的変態水草マニアっぽくって、とてもキュートで素敵です。

 

 

< 特徴 >

 名前は男っぽいですが、見た目は女性的でゴージャス。人間で言ったら美輪明宏みたいな水草ではないかと。ノーマルタイプが濃い緑色から濃い赤色に渡る色彩を持つのに対し、斑入りタイプはやや濃い赤色から淡い赤色の範囲の色彩を持っており、育成条件が好適になって緑が強くなっても、ノーマルタイプほど濃い緑にはなりません。葉脈にあたる部分の色素が少なくなっていて、白い葉脈が走っているように見えます。この斑が入る原因としては諸説ありますが、ウイルスに因るものとするのが現在の有力説です。

 

 

< 育成のポイント >

 以下、特に断ってなければ、ノーマルタイプのマクランドラにも共通の育成ポイントです。

 もともと腐植の多い土壌に自生している草のようで、大磯砂に代表されるような砂や礫に植えると生育が非常に鈍くなります。これを改善するには、砂利の粒と粒の隙間に腐植の多いものを挟み込むような手当てが効果的で、ピートや、ピートを多く含む泥炭、水槽内で発生する浮泥を利用することが昔から行われてきました。 一方、もともと腐植の多いソイル系の底床材を敷いた場合は植栽直後から速やかな生長が見られ、特別な手当ては要求されません。

 また、時間の経過でソイルが水質を軟水側に強く引き寄せ始めると、徐々に生長が悪くなってきます。この現象は、マクランドラがKHの低い水質を好みながらもGHの低すぎるのを嫌う性質があるからです。要するに、炭酸水素イオン濃度は低いけれどある程度マグネシウムイオン濃度は存在する、という水を作ってやれば機嫌が良くなる草というわけです。
  この点、各アクア用品メーカーが推奨している水槽のセッティング方法をきちんと実践していれば、水は自動的にそのような水質に導かれるようになっています。具体的には、ソイルを単品で使った場合や水質に影響を与えない石英砂の下に肥料を敷き込んだ場合です。腐植の影響でKHが低く抑えられる一方、GHの値が一定以下に落ち込まないよう、よく考えて作られています。もちろん、そうじゃない例外的なのもありますが。

 問題は、自分でセッティング方法をアレンジした場合です。水草水槽を始めたばかりの頃は、GHの値を低く抑えることの重要性がわかっていないのが普通です。しかし、いったんその重要性を認識し始めると、今度はGHを低く誘導し過ぎてしまう場合があります。そのようなケースでは、初め、高いGHで調子の悪かった水草がますます調子を崩してきます。水草の種類ごとの性質を理解している人ならばここでGHの低下を食い止める手当をすべきだと分かります。が、そうでないと「まだGHが高くて水草の調子が悪い」と考え、さらにGHの低下を図ってしまいます。この失敗は、KHの上昇のように水槽でよく起きる現象ではないだけに、あまり指摘されませんが、知っておいて損はないと思います。手当ては、KHを上げずにGHを少し上げればよいのですから、塩素や硫酸基とカルシウムやマグネシウムが結びついているものが使えます。私の場合は水溶性の高さや購入の容易さから農業用の硫マグを使っていますが、最近は入浴剤を手作りする人の為にエプソムソルトとして売られている硫酸マグネシウムをよく見かけます。そちらの方が入手しやすいかもしれません。にがりも使えないことはありませんが、ナトリウムが多すぎて弊害の出ることがままあるのでお勧めできません。 そういえば、にがりブームって、いつのまにか無くなりましたね。って、関係ないか。

 ノーマルタイプのマクランドラは、『アクアート』が全盛であった頃の60センチ水槽で見られたように、“大磯+添加なし+上部フィルター+20W2本”という、今では厳しいと思える環境でも、いくつかの要点を押さえることで美しく育てることができます。しかし斑入りタイプのマクランドラではそうはいかないようです。なんとか育てることはできても、葉にコケがついてしまったり、下部が黒ずんでしまったりして、“美しく”育てるのは至難の業です。ノーマルタイプより葉緑素が少なく耐久力がない、とかいった原因があるのかもしれません。大抵は、枯れずに育っている、というレベルになってしまいます。


  その他、一般的な水草本にあまり書かれていないポイントを挙げると、まずは水流。マクランドラは、ノーマルタイプも斑入りタイプも止水を嫌います。かといって、強い水流をあてると葉縁にコケがつきやすくなってしまいます。常に緩やかに水が流れている、という状態がベストです。
  水温は26度前後。急変には比較的弱く、乱暴な換水を行うと致命的なダメージを与えることがあります。特に注意すべきは、ダメージの有無が換水直後ではなく、数日経って溶けるように枯れ始めてから分かる点です。
  照明については、強い光が必須、とする記述をときどき見かけますが、実際は違います。80年代には20W蛍光ランプを1灯載せただけの60センチ水槽で育てていても珍しくありませんでした。“美しく”とは言い難いですが、けっこう緩い光にも耐えます。重要なのは、急変させないこと、です。ゆっくり慣らせば20w×2灯でも美しく育てられます。ただし、斑入りタイプはノーマルタイプよりも神経質なので注意が要ります。
  さらに、光については当て方も重要です。頂葉だけでなく、草体の全体に光が届くように心がけましょう。まとめて植えて群生美を狙うことがあると思いますが、頂部から脇芽をたくさん出させたりすると、中心に位置する個体の下部から枯れ上がってくることがあります。(ノーマルタイプでも起きます。)ですから、できるだけ1本1本の間に隙間を作って、下まで光が届くようにしてやると良いでしょう。

 斑入りタイプは、元気に育てようとして最適な育成条件を整えてしまうと、葉に緑色が多くなったり葉色が濃くなってノーマルタイプと変わらないような姿になってしまうことが珍しくありません。しっかりと分厚く濃い色の葉も、それなりに美しいのですが、それならばわざわざ斑入りを育てる意味があまりないように思います。斑入り模様を美しく出させる手当てとして、よく言われているのが鉄分を与えたり赤い光を当てたりする方法です。しかし、経験からして、あまり効果はないように思います。一番効果があるのは、いくつかの育成条件のうち、1つか2つの育成条件を最適値から少しずらしてやることです。注意点は、あくまでも最適値からずらすだけで、適値内にはおさめておくことです。最もコントロールしやすいのはCO2の添加量で、少しずつ増減させてもっとも美しく見えるところでキープします。また、コントロールが簡単ではないものの経験上最も効果的だと思うのがチッソの施肥量を下げる方法です。最低限のチッソしか与えないでおくと、淡い色でウエーブのかかった美しい葉を見せてくれます。ただし、もちろんやり過ぎは禁物で、過度に不足させると回復不能なほど弱らせてしまいかねません。

 ← こんな感じになったらチッソの減量の限界です。本来、水面に近づくにつれて葉径が大きくなるはずなのに、小さい葉のままです。さらに、葉先に葉緑素がなくなっています。こうなったら、すぐにチッソ分を少量補給します。

 チッソを与えると、早ければ1日で効果が出て調子が戻るはずです。 →
  画像のように葉先に色素が戻り、中心部の新しい葉も色がこくなってきます。
  ただし、これもやり過ぎは禁物です。与え過ぎると綺麗な斑が見えなくなってしまいます。

 

 

< よくある失敗について >

 水草には少々の悪条件には耐える力があります。しかし、悪条件が重なって、ダブルパンチ・トリプルパンチになると調子を崩してしまいます。マクランドラで失敗する場合も、その多くが、この“ダブルパンチ・トリプルパンチ状態”にしてしまった場合です。
 例えば、マクランドラは酸性〜弱酸性の水を好みますが、ゆっくり慣らせば少々アルカリ側に傾いても平気で耐えます。GHもけっこう高いところまで変化させても適応してきます。しかし、アルカリ側に傾いているときに‘弱光'という悪条件を加えて、「ダブルパンチ状態に」にするとすぐに調子を崩してしまいます。一年の管理の中だと、5月ぐらいの日中の水温が高くなり始める時期に、水草が繁茂して下部に光が当たりにくい状態になっているのにもかかわらず、フィルターの掃除を怠って水の流れが悪くなったりすれば、‘ 水温の急上昇 + 下部の光不足 + 水流不足 'の「トリプルパンチ」で、茎の真ん中から黒く腐り始めるようなことがよく起きます。これが経験の豊富な人なら初期の段階ですぐに気づき、重曹を入れたりCO2の添加量を一時的に増やしたりなど、知識の総動員で回復を図れますが、見えにくい部分での傷みなので、たいていは、致命的な状態になるまで気づきません。したがって、やはり、悪条件は1つ発生した段階で速やかに除去し、うっかり複数重ねてしまうことのないよう、普段から予防的に手当てをしていくことが重要なのだと思います。     

 

 

 

2011.10.18



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