■GOOD AQUA■

Hydrothrix gardneri

ヒドロトリックス ガードネリ
(ガードネリー,ガルドネリ)

 

<特徴とレイアウトでの用途>

 比較的大きな水草で、しなやかに開く葉をもつ水草です。hydro(羅)=「水の」、thrix(希)=「髪の」、の名がつけられているように、葉の1本1本が髪の毛のような細い形状で、それが茎を中心にを輪生しています。手触りは見た目の柔らかさとは裏腹にけっこう硬く、少し力をいれただけで葉がポキポキと折れてしまいます。

 見た目に綺麗な水草ですが、育成に失敗する確率が高く、人気の方もイマイチ、といった感じです。その大きな原因は、
(1)輸送で傷みやすい=流通しにくい、そして、
(2)残念ながら、怪しい育成方法=「それ、ほんとに何度もためしてみた?」と疑われるような育成方法が蔓延している、という2点にあるのではないかと思っています。

 言われている育成方法の通りに環境を整え、大切に大切に育てても綺麗にならなかったら、そりゃあ、人気がなくても仕方ありません。さらに、“ヒドロトリックス”という名前がダメです。覚えにくい上に、「ヒドロトリックスだけに、すぐ枯れてひどいなぁ・・・・・ヒドロいなぁ・・・・・・・・非道やなぁ・・ヒドロやなぁ・・・  」と、ダジャレもぜんぜん出てこない名前です。人気が出る要素がぜんぜん見当たりません。
  しかしそれだけに、逆に、自力で綺麗に育てるコツをつかめ、思い通りに育てることができるようになったら、それはそれで達成感があるものです。愛着もわいてくるはずです。


  ヒドロトリックス ガルドネリの色彩はあまり個性的ではないため、これを主役に据えたレイアウトは難しいと思います。ただ、葉長が長くなるように調整して育てたものは、その輪径の大きさゆえ、水景に1本加えただけで<繊細>というイメージを付加することが可能です。この点、同じような草姿のマヤカソウが、群生させなければレイアウトのイメージに変化を与えにくいのとは対照的です。
 一方、同じような姿形で大きさも似ているケヤリソウとは、レイアウトの中でほぼ同じ役割を果たすと言えるでしょう。イメージの構成という点では、ケヤリソウが手元にあればあえてこの草に手を出す必要はないかもしれません。

<育成のポイント>

 育成の最も重要な点は、他の南米産水草と同様に、弱酸性の軟水で育て二酸化炭素の添加を行うことでしょう。
 水草について書かれた洋書の中には、育成のポイントとして「若干硬度を好む・少しアルカリ側に傾いた水が適する」 としているものもあります。それもあってか日本でも、若干の硬度と少しアルカリ側に傾いた条件が適している、としているものをよく目にします。
 しかし、実際のところ、そのような水質では輪径が小さくなったり茎・葉が硬くなったり黒ずんだりすることが珍しくありません。

 逆に、他の南米産の水草と同じように、硬度をできるだけ低く抑え、弱軟水を保つようにすると、画像のように輪径が大きく色艶の良いしなやかな草体に育ちます。また、根張りが明らかに良くなります。このようなことは何年かかけて条件や個体を変えて試してみるとよくわかります。
 したがって、変わった主張のように思われるかもしれませんが、この草は他の南米産の水草と同条件で育てることをお勧めします。同じ条件で群生させると、たいへん綺麗な姿で目をたのしませてくれます。

 トリミングで殖やすにはちょっとしたコツがあります。ロターラやハイグロフィラの仲間と同じような気持ちで乱暴に2つにぶった切ると、片方が枯れてしまいます(たいてい下半分)。片方は生き残りますが、それではいつまで経っても最初の本数から増えません。トニナやケヤリソウもそのような傾向がありますね。あれと同じような感じです。
 本数を増やしながら茂らせるにはいくつか方法があるのですが、まずは簡単な方法です。

  (1)頭頂が水面に達してもすぐには切らず我慢し、茎が頭頂を持ち上げようとして少したわむのを待つ。
  (2)そうなったら茎を、上半分:下半分= 2 : 3 ぐらいになるようにカットする。

 2つに切ったときに下半分が枯れてしまうのは、育成条件が適切でない場合はもちろん、適した条件下であっても頭部が無くなって急激に光合成の量が減ってしまうからです。その点、このようにすると、下半分も水面に近く、光を多く受けられるため、多くの場合きちんと生き残ります。もちろん、それを助けるための手立て、すなわち、周りの水草も刈り込んで光の通り道を空けてやることや、1〜2度水温を下げる、水面を少し下げる、水の透明度を上げる、ランプを新しくする、ヨメはんに「もう1本買ってくれぇ (ToT) 」と泣きつく、といったことも有効です。
 上半分はそのまま底床に植え込むだけですぐ根付きますが、光の当たり方にはやはり配慮が必要です。


 茎の各節から出てくる脇芽を増やす方法もあります。こちらは育成環境を根本的に改善する、いわば王道ですから、手間は少々かかります。そのかわり一度にたくさん殖やすことができます。

 (1)水質を最適になるように調整します。すなわち、硬度物質をできるだけ除去し二酸化炭素を強制添加して弱酸性を保ちます。
 (2)光と底床も改善します。すなわち、光をできるだけ多く確保し、底に有機物をたっぷり含んだ底床にします。
 (3)頭頂が水面に達しても切らず、茎が頭頂を押し上げさらに頭頂が水面下を横に寝そべるように伸びるまで放置します。その際、おそらく頭頂は葉が照明で焼けてダメになるはずです。しかし茎の各節から小さな脇芽がいくつか顔をのぞかせますから、その脇芽の方を大事に育てます。
 (4) 脇芽が1センチぐらいになったら、できるだけ上半分が長くなるように本体を2つに切り、上半分をピンセットで植え込んで脇芽をさらに大きく育てます。頭頂は照明で焼けて美しくないと思いますが、脇芽に光合成でできる栄養を送り込む重要な役目を担っています。よって切り落とさずそのままにしておきます。一方、残された下半分は、その先が水面に近ければいくつか脇芽を生長させられます。そうでなければ枯れてしまうので早々に見切りをつけ、上半分の方を光の当たり方など優先させて育てます。
 (5)脇芽は10センチぐらいになれば本体から切り離して植えられます。ただ、頭頂が照明から急に遠く離れてしまうと生長が極端に鈍ることがあります。安全を考えるならばたとえ水面に寝そべるような形になっても15センチを超えるまで切り離さずに待つ方が良いでしょう。

 この方法の場合、脇芽が出ない時は環境の不適合が疑われます。特に気をつけるべきは、高水温なのに光が不足している環境です。この2条件が揃うとなかなか芽が出ないようです。

 他にも、他の水草同様、底床に植えずに浮かせて殖やす方法や種を採って殖やす方法などいろいろありますが、そのあたりのマニアックな方法はやはり自分で試行錯誤してこそ面白いと思うので、“殖やし方”はこのへんでやめておきます。      

 通常のトリミングは簡単で、下の方で切って頭がついている方を植え込むだけです。ただし、草体を手でしっかり握ってしまうと葉が曲がったり折れてしまいます。ですから、できるだけ草体に触れないよう、遠くからハサミ(刃先が細くて全長が長いものが良い)を節間に差し入れるようにしてカットします。
 環境に合っていて根張りが良い個体は、上で述べたような殖やし方を実践していなくても、自然に頭頂部が2つに分かれて伸びるようになってきます。そうなったら、草体の上半身を切り取って植え直すだけでトリミングと増殖が同時に行えます。また根張りが良ければ、上を切り取られてしまった下側からも新芽が出てくるようになります。

  根張りがしっかりしている個体に対しては、チッソ分がしっかり入った肥料が有効です。底床下に液肥を注射するか固形のものを入れれば目に見えて生長が良くなります。逆に、KHやpHの値が高いなどの理由で輪径が小さく根張りの悪い個体に肥料を与えると、すぐに葉にコケがつき始めるなどの悪影響が現れます。いったん葉にコケがつくと、一本一本が細いだけに手で擦り取るわけにもいかず、かといってエビに食べさせると弱った葉まで丸坊主にされてしまいます。また薬品を使うと葉が溶けてしまいますので、もはやコケの除去はほぼ不可能、ということになります。したがってこの草の場合、弱ったときに水に栄養を加えるような行為は他の草の場合以上に慎重に行うべきと言えます。

09.01.30



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