提案 : 第四世代のアクアリウム
 「 調和水槽 」
 
   
 

 
 現在のアクアリウムは、どんな視点をとるかによって、様々なスタイルに分類できます。
 たとえば、“レイアウト”という視点からの分類すると、水草を幾何学的に配置するレイアウトスタイル、自然の景色を真似るレイアウトスタイル、というように分けられます。
 また、たとえば“維持の方法”という視点からも分類できます。できるだけ換水をしないで済ます維持スタイルや、換水を定期的に行う維持スタイル、というように分けることも可能です。

 さて、今回この稿で取り上げようとしているのは、“主役を何と考えるか=着目すべき生体は何であるか”という視点で分類する場合のはなしです。

 我が国で、初期の頃のアクアリウムで着目されていた生体は、もちろん“魚”でしょう。当時、大部分の飼育者は、“いかに元気に魚を育てることができるか”にのみ注力していたはずです。
 このような、魚の育成だけに注意を払っていた初期の頃のアクアリウムを、ここでは、区別し易く「第一世代のアクアリウム」と呼ぶことにしましょう。

 第一世代のアクアリウムにおいては、“水草”はまだ主役ではありませんでした。脇役にさえもなれず、完全に飼育者の視野の外にありました。
 しかし、魚の呼吸に必要な酸素の供給源として、水草の有効性が説かれるようになると、“水草と魚”の両者に着目した水槽が維持されるようになりました。水草は魚の排出する二酸化炭素を消費し魚は水草の排出する酸素を利用する、という、ガスを交換し合う点に着目されるようになったわけです。
 このようなアクアリウムを、「第二世代のアクアリウム」としましょう。

 次に一般的になったのが、それまでの主役であった“魚”と“水草”に加えて、“硝化細菌”にも着目するアクアリウムです。これは「第三世代のアクアリウム」と言えるでしょう。
 第二世代のアクアリムとの違いは、単に着目する生物の種類が増えたというだけではありません。それまでは、「主役は魚と水草」という発想でしかなかったところへ「主役を支える役割をするもの」という発想が加わっています。魚と水草を直線的に対比させて発想していたとすれば、立体的な発想に変わったと言えるかもしれません。
 また、第二世代のアクアリウムでは、酸素と二酸化炭素のバランスだけが考えられていたのに対し、第三世代では、硝化細菌の活動による窒素の流れまでが考慮に入れられるようになりました。これは大きな変化と言えるでしょう。
 そして、現在のアクアリウムにおいては、魚の繁殖目的の飼育や特殊な形態の魚の飼育をのぞけば、この「第三世代」目のアクアリウムが、主流であると思います。試しに、アクアリウムの本やサイトを開いてみて下さい。「魚の飼育方法」、「水草の育成方法」、そして「硝化バクテリアが行う濾過のしくみ」の3つが中心に据えられ、解説されているはずです。古い本には、魚の育て方と、水草の種類が書かれているだけでしたから、それを思うとここまでずいぶん変遷してきました。

 そして、第三世代の次のアクアリウム、つまり「第四世代のアクアリウム」として、このサイトで提案しているアクアリウムがあります。魚、水草、硝化細菌の3者だけでなく水槽内の生体できるだけ全部に目を配ろう、というアクアリウムです。
 言うまでも無く、自然界では生物がお互いに影響を与え合いながら生き、結果、全体として調和が保たれるようなしくみになっています。
 しかし、現状、なぜかアクアリウムの世界ではこの事実がなおざりにされてしまっています。
 そこで、アクアリウムを考える際にもアクアリウム内の生体全体を視野に入れよう、ということを提案しています。

 このような考え方の「第四世代のアクアリウム」には、まだ名前がありません。今までのところ、このサイトの中では「共生水槽」とか、たんに「水草水槽」という言葉で表しています。しかし「共生」という言葉は、本来イソギンチャクとクマノミの関係のようなものを指すので、誤解を招き易いようにも思います。また、「水草水槽」と言ってしまうと、これまでのアクアリウムと混同されがちな気がします。
 そこで、「調和水槽」及び「ハモニアス アクアリウム (HARMONIOUS AQUARIUM)」という語を充てようと思います。

 さて、この「調和水槽(ハモニアスアクアリウム)」ですが、冒頭からの話しをまとめる意味も兼ねて、もう一度定義し直してみると、

 「調和水槽」=「水槽の中の生物全体に着目して発想する水槽」  となります。


 では、これまでのアクアリウムとどこが違うのか、というところを、より具体的に見てみましょう。

 たとえば、「濾過器のサイズはどれくらいが適当か」を検討する場面です。
 この点、これまでの魚が主役であるアクアリウムにおいては、魚が排出するアンモニアができるだけ速やかに硝化されることがのぞましいのですから、当然、「できるだけ大きいものが良い」という結論になります。
 しかし、「調和水槽」では、水槽内の生物全体に着目して発想するので、ちょっと異なった結論がでます。水槽内にいる魚や水草以外の生物のことも視野に入れなければなりません。この問題では、プランクトンのことが重要になるでしょう。
 プランクトンは、その名前の通り、「浮遊する生物」です。すなわち、水の流れに身を任せて生活しています。そこに大きな濾過器をつけて濾材に水を通せばどうなるか?これはすぐにわかりますね。大きめのプランクトンは、濾材でどんどん漉し取られてしまいます。「調和水槽」では、プランクトンも主役の1つであるので、このような現象は無視できないことになります。
 したがって、「調和水槽」では、濾過器のサイズは、最小限が良いことになります。

 またたとえば、「水が緑がかってきたときの対処法」という問題です。
 今までのアクアリウムの考え方では、「緑色になる元を断つ」という対処法になります。具体的には「換水」によって水槽外に取り出すか、あるいは、活性炭などに吸着させて取り出すか、といった方法です。
 しかし、「調和水槽」の発想だと、換水や吸着材による物理的な対処法よりも先に、生体全体のバランスから検討することになります。すなわち、この場合、水槽内に植物プランクトンが殖え過ぎているわけですから、これを摂取する生物の不足に着目することになります。具体的には、動物プランクトンを水槽へ投入するなどの対処が優先することになります。

 このように、「主役を何と考えるか=着目すべき生体は何であるか」という視点が異なれば、個々の問題に対する結論や対処が異なってきます。
 したがって、その根本となる考え方はたいへん重要だと考えます。
 そこで、アクアリムの次の一歩として提案したいのが、この「調和水槽」「ハモニアス アクアリウムという発想なのです。

追記 02.03.01

 どうも少し誤解が存在するようなので、以下、追記しておきます。

 上述の「第一世代の」、「第二世代の」・・という言葉は、優劣を意味するものではありません。注意深く読んでいただくとお分かりいただけると思いますが、上記はそういう内容ではありません。

 たとえば、“移動手段”で言えば、時代の移り変わりとともに「自転車」、「自動車」、「飛行機」・・と、色々なものが現われてきましたが、これらは“どれが優れているか”というものではありませんよね。今現在も、それぞれ“目的に応じて”使われていると思います。「空を飛ぶ」という考え方の方が新しいからと言って、スーパーへの買い物に飛行機で行くバカはいないですよね。

 「自転車と飛行機とどちらが優れているか」と考えるのがナンセンスなのと同じように、上で言うところの「第一世代のアクアリウム」と「第四世代のアクアリウム」を「どちらが優れているか」と比較することはナンセンスです。

 たとえばディスカスの繁殖を効率よく行いたいときは、「濾過バクテリアがどうのこうの」などと考えるよりも水処理器からどんどん水を流し込み続けた方が良い結果が得られるに決まっています。
 また、たとえば年魚タイプの卵生メダカを「第四世代のアクアリウム」で飼育するのは、そもそも無茶なはなしです。水槽が安定したときには、メダカは寿命を迎えてしまっているはずです。微生物の生物相の安定がどうのこうの・・と言ってるヒマは無いはずです。

 要するに、ここで話していることは、「どの方法が・どの考え方が優れているか」ということではありません。「自転車や自動車だけでなく、“空を飛んで行く=飛行機”って手もあるのでは?」というはなしです。

02.02.27
追記02.03.01

 



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