■GOOD AQUA■
 

卓上アクアリウムのススメ     01.06.10 01.10.06
  


 
1.アクアリウムをもっと身近な存在に

(1)費用の問題

 自分の家にも観賞にたえる水草水槽を持ちたいと思えば、残念ながらそれなりの(結構な)費用がかかるのが現状だと思います。「水草水槽は、お金をかけずとも実現できる」とおっしゃる方でも、それが可能な技術を身につけるのに、実は相当な費用をかけていたりします(ご本人はそれを見落とされているか、忘れていらっしゃるのかも)。 また、仮に費用を極力抑えた器具の組み合わせを考えたとしても、比較的多額の出費になるはずです。

(2)置き場所や手間の問題

 また、水槽を置くとなると、水槽それ自体の大きさ分のスペースはもちろんのこと、濾過器のスペース、照明器具のスペース、あるいは換水が可能であるところ、といった場所的制約にも縛られます。
 加えて、水が入った水槽は重いので簡単に持ち運ぶことができず、水換えひとつ行うにもホース、バケツ、タオルなど、いろいろ面倒です。

(3)騒音の問題

 もうひとつの問題が、この騒音の問題です。エアーポンプの騒音はもちろんのこと、濾過器のモーター音も無視できません。
 熱帯魚ショップでは、店内でたくさんのモーターやエアーポンプが回っていることもあって濾過器1つ1つの騒音がどのくらいであるか、といったことにあまり気が払われていないようです。だからショップの方に「この濾過器のモーターはうるさくないですか?」と尋ねても、「そんなことはないです」と返されるのが普通です。
 しかし、買って帰って静かな夜に電気を消してベッドに入っていると、濾過器のモーター音はけっこう耳につきます。「ブーーン」という音が気になって寝つけなかった経験のある方も多いのではないでしょうか。家の周りに大きな道路などがあれば別ですが、静かな住宅地に住んでいる方たちにとっては、十分耳につく大きさの音です。
 私の場合「いつも目に入る身近なところに水槽を置いておきたい」という気持ちから、机の上にも水槽を置いておきたいのですが、実際に水草水槽を置いてみるとこれがけっこう「うるさい」のです。
 夜遅い静かな時間に机に向かって手紙なんかを書いていると、モーターが「ブイ〜ン」だとか「ウ〜〜ン」だとか唸っていて、イライラしてきます。安らぎを与えてくれるはずの水草水槽が、逆にイライラの原因になってしまって、なんのことやら・・・。

(4)「卓上アクアリウム」

 そこで、こいういった問題を抱えていらっしゃる方にお勧めしたいのが「卓上アクアリウム」です。
 「卓上アクアリウム」とは、簡単に言えば「砂と水草と魚などを入れただけの水槽」です。
 エアーポンプも濾過器も使いません。使わないから騒音の問題はありません。
 机に置いてじゃまにならない程度の大きさの水槽を使うので、水換えもそのまま手軽に風呂場にでも持って行ってやれます。斜めにしてジャーと流して、蛇口からチョロチョロ入れればおしまいです(もちろんカルキ抜きや水温合わせは必要)。
 そして、きわめてシンプルなセッティングなので出費も最小限ですみます。
 置き場所の問題も、机の上、出窓、本棚、上部濾過器の上、カラーボックスの上、などなど、温度と光の問題さえクリアしていればちょっとした隙間で解決できてしまいます。

(5)「卓上アクアリウム」を勧める最大の理由

 そして私が卓上アクアリウムを勧める最大の理由は、“アクアリウムを身近に置ける”ということです。
 「部屋に緑を置きたい」、「少しでも心の休まるものを」、「目を楽しませてくれるものを」と思って水草水槽を置いたはずなのに、「お金は羽が生えたように飛んで行く」、「週末は家族と過ごす時間を削って水槽のメンテナンスに追われ」、「忙しくて手をかけなかったら崩壊してしまって観賞なんてできるものじゃなくなった」、なんてことでは本末転倒です(そこが好きだ、というのも分かるには分かるのですが)。
 それに「水槽の楽しいところって、水槽の中の様子をじっくり見てこそ発見できるものだ」と私は思うのです。水換えやトリミングの手間に追われてゆっくり観賞する時間が無く、ふだんは「異常がないか」だけチェックして終わり!というのでは、あまりにも味気ないです。でも実際のところ、私たちはそういう感じになりがちですよね。 だから、ほとんどの人が、どこの水槽にもいるはずのミジンコや線虫の存在にもなかなか気付けないでいたりするんだと思います(私も似たりよったりの状態なんですが・・・)。
 そこで、一度ためしに、時間も手間もお金も場所も最小限で済む「卓上アクアリウム」を机の上に置いてみて下さい。今までメンテナンスに取られてきた労力と時間を純粋に「観賞」に振り向けることができるはずです。

 「卓上アクアリウム」を机に置けば、「本来のアクアリウムの楽しみ方」、すなわち“見て楽しむことの喜び”を再発見できるはずです。

 

2.「卓上アクアリウム」とは

  「卓上アクアリウム」という言葉自体は、私の造語です。「机の上に置けるぐらい静かで手軽な水槽」という意味を込めてあります。
 この水槽のスタイル自体は、私のオリジナルでも何でもなく、昔の水草水槽(=水生生物の共生水槽)のスタイルそのものです。
 昔の水草水槽の原型となっているのは、ローレンツ博士の代表的な著書で、動物行動学の入門書として有名な「Er redete mit dem Vieh, den Vogeln und den Fischen」(※)の1章で出てくる水槽です。
 当時(1930年代)、オーストリアやドイツなどのヨーロッパでは、すでにエアーポンプ、濾過装置、ヒーターといったものが普及し始めていて、いわゆる“熱帯魚の飼育”が一般になってきつつあったようです。
 この本の中に出てくる水草水槽は、当時のそのようなエアーポンプや濾過器を使った“人工的なやり方”に対比して描かれています。
 すなわち、ガラス鉢にきれいな砂と水を入れ、水草を2、3本さして窓際に置いておく、 水が澄んで水草が成長し始めたら小さな魚を数匹入れる、という単純な水槽で、その素晴らしさと面白さがいきいきと描かれています。。さらに、手作りの網で近くの池をさらって、プランクトンなども含めた様々な生き物を掬い、これを水槽にもってくる方法で作った単純な水槽を「一番のお気に入り」として紹介されています。

 私も、そのような身近な色んな種類の生き物を入れた単純な設備の水槽をおもしろいと感じています。しかし、現在の市街地に住んでいる者にとっては、水草や魚やプランクトンを気軽に掬って来れる池なんてそうそう簡単に見つかりません。

 そこで私としては、基本的なところはローレンツ博士の描かれている水槽に準えながら生体については熱帯魚ショップで手に入るものを導入する水槽が手軽で現実的なものとしてお勧めできるのではないか、と思っています。
 すなわち、水槽に砂と水を入れ、ショップで買って来た魚や水草やエビを入れるのです。但し、それだけでは足りないのでミジンコなども自分で調達してここに足してやらないとダメです。
 そして、あとはできるだけ器械を使わずに維持します。といっても、観賞面から電気スタンドぐらいは必要でしょう。そして草の種類によっては発酵式のCO2添加装置ぐらいは使っても良いのでは、と思っています。

 よって、「卓上アクアリウム」とは、
 
1.机の上に置けるぐらいの水槽を用い、

2.シンプルなセッティング(濾過器やエアーポンプは使わない)で、

3.色々な生体による自然なバランスを重視する水槽で、
(この意味でバランスト アクアリウムに近い)

4.生体の産地や補助器具についてあまり厳格に考えず、あくまでも「見て楽しむ」ことを主目的にする水槽。

と定義することになります。

 


机の上で維持されている卓上アクアリウムの一例。

 


 

 あと、ここで忘れずに書いておかないといけないのは、
 「 卓上アクアリウムは、ちょっと難しい 」 ということです。

 装置(水槽だけ)や維持方法が単純なだけに簡単そうにも思えますが、実際にセットして失敗なく維持しようと思えば「謙虚さ」や「自制心」(byローレンツ博士)が要求されますし、生き物の種類と量の選択にあたってはそれなりの知識が要求されます。また、生態系についての基本的な知識や危険を早目に発見する観察眼といったことも必要になります。
 したがって、初心者の方がいきなり挑戦して一発で成功する可能性は高くないと思います。そうではなく、一般的な器具を使った水草水槽の維持は問題なくできるレベルの中・上級の方が、「純粋な楽しみを見直す」といった姿勢で取り組めば面白いものだと思います。
 ローレンツ博士が自然科学の専門家であったこと、そしてこのような簡素な設備の水槽で生き物を飼うことが難しいからこそ器具が発達して今のようなスタイルになった、ということを考えれば、その難しさの程度はだいたい想像できると思います。

 

 以上、ここまでが、私の言う「卓上アクアリウム」の概観です。

 次の「セッティング」編 では、水槽の設置の仕方を中心に実践的なことを説明してみたいと思います。
・・・とは言っても、上述の通り、セッティング自体は極めて簡単で、本当に難しいのは生体の種類と量の選択、調子の見極め、といったところなのですが・・。

 

<参考>

※ローレンツ博士:
コンラート・ローレンツ(Konrad Zacharias Lorenz) 1903ウィーン - 1989。
動物行動学の開祖で、1973年にノーベル賞(生理学医学)を受ける。
ハイイロガンの研究で、最初に見たものを親だと思う性質(刷り込み)があることを発見したのは有名。但し、博士の思想の源流の部分に対しては批判も多し。

※「Er redete mit dem Vieh, den Vogeln und den Fischen」:
直訳すれば、「彼、動物・鳥そして魚と語る」。1949
英語翻訳版の題名は「King Solomon's Ring」。日本語版は「ソロモンの指環」1963。
自然科学の動物の行動について学ぶ者はたいてい一度は読んだことがあるはずの本。

 

 


 

熱帯の魚&水草 熱帯の水草&エビ

 

熱帯の魚と温帯の草 温帯の水草と魚

 




 

 以下、余談です。

 コンラート・ローレンツ博士のこの有名な本は、邦題「ソロモンの指環」として、今はハヤカワ文庫として出ていると思います(出ていなかったらこめんなさい)。無ければ、図書館で探してもらって下さい。有名な本なので昔の新書タイプやハードカバーのものぐらいは置いてあるはずです。

 本の中でアクアリウムについて書かれているのは1章だけ(全部で12章)なのですが、その文章は生き生きとしていて博士の豊かな感性が伝わってくるはずです(もちろん翻訳もすばらしいのです)。その文章から「アクアリウムへの興味」を持つようになった人は大勢いるでしょう。

 

 「被害をあたえぬもの---アクアリウム」の章に出てくる水槽は、邦訳で「平衡水槽」と表現されています。要するに、「バランスト アクアリウム」です。
 この古い本を読めばわかりますが、もともと「バランスト アクアリウム」とは、この本に出てくるような「人工的な器具を使わない水槽」のことを指していたようです。

 要するに、「エアーポンプや濾過器が使用されるようになった水槽の対極として描かれている水槽」のことです。言い換えれば、「エアーポンプや濾過器などの人工的な機器を使わなくても水草や魚、その他の生き物の間でバランスが取れている水槽」のことです。「人工的に濾過器を着けなくとも濾過が足りている水槽」という一面もあるでしょう。この水槽では原則として照明器具すら用いられません。
 「エアーポンプやヒーターなどの器具が発明される前のアクアリウム」とイメージすればその姿をつかみやすいかもしれませんね。

 注意しないといけないのは、餌は少量ながらも与えられるし、必要ならガラスのコケ落としも行われるし、少量の水換えもされる点です。
 たまに、「『バランスドアクアリウム』というのは、コンラート・ローレンツ博士が発明したもので、水換えも餌やりも一切しない水槽のことです」などと説明されている文を見掛けますが、間違っています( 『ソロモンの指環』の中にも「魚に餌をやったり、ときどき手前側のガラスをきれいにふいたりすることをのぞけば、・・」という記述がでてきますから、本を1度でもちゃんと読んでいればそんな間違いは起きないはずなのですが・・・)。
 また、
「窒素を循環させ、水換えも一切しない水槽」という意味でバランスト アクアリウムを捉えている人もいますが、やはり間違っています。
 さらに、「だから「バランスト アクアリウムは実現不可能だ」などと言っている文章なども存在しますが、同様に間違っています。「バランスト アクアリウム」は、もともとそんなものではありません。窒素循環も含めすべての点で人為を排する方向の水槽は「パーフェクトアクアリウム」などと呼ばれ、もっと後になって試みられるようになった別の概念です。

 「バランスト アクアリウム」というのは、あくまでも「人工的な器具の助けを借りなくてもバランスを保つ水槽」という意味であって、もともとそれ以上でもそれ以下でもないはずです。

 ちなみに照明器具やエアーポンプ、濾過器、添加剤、ヒーター、サーモ、など、色んな人工的な機器をたくさん着けて無理やりバランスを保たせている今の私たちの水槽のことを指し、「これはバランスト アクアリウムといって・・」などと書いている本も目にすることがあります。そんな記述をみかけたら、思わず「どこがやねん!!」とツッコミを入れたくなるのは、私だけではないでしょう。
 バイアスで情報を拾わないように複数の人間で文献を丁寧に遡っていけば、すぐにわかるはずのことなんですけど、どうなっているのやら・・。

 



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