■GOOD AQUA■

換水時のミジンコへの影響
  


01.10.21

 
 前の「水道水の塩素対策を極める」の中で、次のような問題を提起しました。
 「換水時に塩素中和をいい加減にやっていると、魚などの目に見える生き物は大丈夫でも、目に見えていない生き物に影響を与えている。」という主旨の発言です。
 水道水に含まれている塩素の濃度は、人間には何ともなくても、魚にとっては致命的です。ですから、水道水を水槽に入れる前には必ずその中に含まれている塩素を抜くか中和するかします。これは常識ですね。
 そして、同じことは魚と微生物の間でも言えるはずなのです。魚にとって何でもない塩素濃度まで下げられた水であっても、微生物にとっては致命的であることは容易に想像できます。

 しかし、残念ながら、このことに無頓着な人が多いのが現状です。
 解説書などの中には、一方で、水槽の中の「ニトロソモナス」だとか「ニトロバクター」などバクテリアの存在の重要性を説き、水道水はそのままだと魚には致命的であることを説明しておきながら、一方で、塩素が十分に抜け切るとは思えない処理方法を紹介していたり、3分の1ぐらいの換水なら塩素対策は不要である、と言い切っているものさえあります。
 「人間にとって無毒でも、魚には有毒」と考えられるのなら、「魚にとって無毒でも、微生物には有毒」と想像を働かせるべきだと思います。バクテリアのようなミクロな世界にまで注目していながら、そのミクロな世界を壊してしまうようなことを平気でするのは、はっきり言って、「変」だと思います。

 しかし、上述のような意見には、反論があると思います。
 「“適当な水換え”かもしれんけど、それでやってて問題ないんやから、それでええのんとちゃうのん?」という反論です。上のような意見に対しては、私自身が、そう反論したくなるのですから、そう思う方もいらっしゃるはずです。
 そのような反論に対しては、「確かにそうです」と答えるしかありません。
 そして、「でも、それは、飼い方(飼育スタイル)による」と付け加えたいです。

 もし、維持している水槽が、魚を飼うことだけを目的にしたアクアリウムなのであれば、塩素対策なんか、適当にして良いと思います。3分の1ぐらいの換水なら、わざわざ塩素を抜く必要はないとも思います。ミジンコやワムシのことなんか気にする必要はありません。私も、ディスカスやエンゼルをブリーディングするときは、いつもベアタンクで行うので、塩素対策はそんなに気を遣いません。魚にさえ影響がなければ良いのですから、少々の換水なら水道から直接そのままドボドボと入れたりもします。
 また、魚と水草だけを育てている場合も、それほど塩素のことを気にすることはないと思います。一般に、水草の方が魚よりも塩素に対して鈍感ですから、少々塩素が入っても大した影響は出ません。塩素の添加量が少ない地域なら、週に1回、3分の1ぐらいの換水は、塩素を抜かずに蛇口からそのまま水槽に入れるようなことをしても大丈夫なことが多いはずです。

 しかし、魚と水草だけでなく、プランクトンや原生動物、バクテリアなども含めて、「水槽の中の生態系」を維持して楽しみたいのなら、話しは別です。
 何ヶ月もかけて、徐々に作り上げられてきた生態系も、乱暴な換水を1回行うだけで激変してしまうことがあります。魚にとってはなんともないような、ごく薄い塩素濃度まで中和・除去されている水道水であっても、このような「生態系を作り上げている水槽」に入れて良いわけがありません。水槽をセットして、硝化バクテリアが十分にすみつくまで何日も待ち、さらに原生動物やプランクトンが水の濁りや汚れを分解しながら水槽内のバランスを作り上げるまで何ヶ月も待ちながら、そのバランスを、自分で壊すようなことをする必要性は、まったくありません。
 ただし、このような、「生態系のバランスができている水槽」では、少々のダメージがあったとしても、生態系全体でバランスを回復しようとするので、そのダメージの修復は早いです。
 しかし、それも、藍藻やコケ対策と称して換水を毎日繰り返したりすれば、回復できないところまで追い込んでしまいます.。1度の乱暴な換水では、そのダメージが私たちの肉眼で確認できないだけで、連続して行えば、すぐに表面に現われてきます。(このあたりのことは、「バクテリアの増減の仕方」に詳しく説明してあります)

 で、「結論」です。

・ 「水槽の中に作り上げられた生態系」を壊さない維持を目指すなら、魚に影響がない程度の塩素でも、水槽に入れるべきではない。
・ 1度の乱暴な換水ではその悪影響はなかなか目で確認できないが、連続して行えば生態系に与えられた影響が顕在化する。


 では、その「乱暴な換水」がどのような影響を与えるのか、簡単な実験で見てみましょう。
 水道水の水温、気温とも25度に近くなる日を待っていたのですが、この前、ちょうど良い日が巡ってきたので、撮影してみました。

   ビー繁殖用の水槽の水と、その水槽にいるカイミジンコとを一緒に、グラスの3/4まで入れます。
 右側のグラスが試験用、左が対照用です。
   右側のグラスに1/4の換水にあたる量の水道水を、そのまま塩素中和せずに入れます。コップの水温は24.5度、水道水も24.5度です。
 左側のグラスには、ハイポで塩素を中和させた水を入れました。
   30分経過した時点での様子です。15分ぐらいは、何の変化も起きませんでしたが、その後急激にミジンコが活動しなくなりました。
 私の住んでいる地域は、汚い淀川から水で取水しており、なおかつ高度処理もしていないため、けっこうふんだんに塩素が入っているようです。
   上の画像をアップにしたところです。
 左側のグラス=塩素中和した水で1/4換水したグラスの方は、ほとんど変化がありません。
 対して、右側の塩素中和しないで換水したグラスの方は、数匹のミジンコが泳いでいるだけで、あとはすべてグラスの底に横たわっています。(このあと徐々に死んでしまいました)
       
   上の状態のまま静置して丸3日間経った時点での状態です。
 右側のグラスで、またミジンコが湧いてきて、左側のミジンコの量に近づいているのがわかります。

 このように、塩素を中和していない水道水で1/4の換水を行っただけで、カイミジンコには大打撃になることがわかります。
 また、このグラスの条件であれば、3日間あれば、だいたい元に戻ることも分かります。

 もちろん、実際には、それぞれの水槽の条件はみな違うのですし、他の微生物ならどうなのか、ということも、この実験ではわかりません。特に、もっと身体が小さいバクテリアなどに対するダメージがどうであるか、ということは、重要であっても、なかなか確かめられないです。
 したがって、あまりにも小さいミクロの世界については、趣味のレベルでは、このような実験から想像せざるをえないと思います。

 上記のようなレベルの実験は、お金も器具もいらない実験なので、ぜひご自分でやってみて、どんな影響がでるのか、確かめてみることをお勧めします。

 



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