■GOOD AQUA■
バクテリアの増減のしかた
今回は、濾過バクテリアの増え方や減り方について考えてみたいと思います。濾過バクテリアの増え方や減り方を気にする場面というのは、ふだんの水槽維持の中でけっこうあるはずです。最初に水槽を立ち上げる場面もそうですし、その立ち上げ期に水換えをする場面でもそうです。また魚を入れるタイミングを見極める場面でも気にしますし、どのくらいの量の魚を入れて大丈夫か考える場面でもそうですねよね。もちろん、水槽が立ち上がってからは換水を行う場面や、うっかり濾過器のコンセントを入れ忘れていたのを発見した、なんていう場面でも気になるはずです。引越しでフィルターを外して運ばないといけない場面なんていうのもありますね。
したがって、本当ならば水槽の維持において濾過バクテリアの増減は厳密に管理されるべき項目だと言えるでしょう。
しかし、濾過バクテリアの増減は、肉眼で簡単に確認できるものではありません。家庭にある子供用の虫眼鏡や拡大鏡では見えません。我々が家庭内の趣味のレベルで判断しようとしても、それは無理なようです。唯一、判断の手掛かりになるのが、アンモニアや亜硝酸の試薬類で測定した値ですが、所詮その測定値も、バクテリアの働きの結果を一時点で区切っただけのものです。バクテリアの増減を表してはいません。したがって、増減を知るためには連続して測定しなければなりません。しかし、実際上、連続して測定することは費用的・時間的に厳しいものがあります。
そこで今回は、たまに測定するだけの値と実際の水槽内の様子との橋渡しになるように「バクテリアの増減のおおまかなイメージ」を把握してみたいと思います。イメージが頭の中にあれば、たまに測るだけの値でも、自分が行った維持方法と突き合わせて“水槽の中がどんな状態になっているか”を把握する資料にできます。下降線を辿っている変化の途中の値なのか、あるいは上昇線を辿っている変化の途中の値なのか、そういったことぐらいは分かるようになるでしょう。
ただし、実際の水槽でのバクテリアの増減は、pH値や温度、換水頻度、栄養塩量、掃除の仕方・頻度、バクテリアの種類、種類数とその相互影響関係、添加剤の投入の有無・頻度など、様々な不確定要素によって起きています。
したがって、すべてを考慮に入れて全体的・普遍的に把握することは事実上不可能です。あくまでも、判断の助けとなる「大まかなイメージ」を把握するだけであるのは、分かっておいて下さい。
さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
みなさんは、濾過バクテリアの増減の仕方を直線的に捉えたかのような記述に出会われたことはないでしょうか? 新規立ち上げの水槽なら、毎日少しずつ少しずつ濾過バクテリアが増加していく、というようなイメージを抱かせる記述です。
すなわち、右の図のように、時間の経過とともにバクテリアが直線的に増加していくようなイメージを前提にして書かれている意見です。 しかし、実際、バクテリアはそのように増えていくのではありませんね。
たとえば、こんな例を挙げればバクテリアの増え方のイメージを把握し易いのではないでしょうか。
ある池に、蓮(ハス)の葉が1枚あります。
次の日、その蓮の葉は2枚に増えていました。
そして、またその次の日になると、4枚になっていました。
そしてある日、池を見ると、その水面が蓮の葉で一杯になっていたのです。さて、そこで問題です。
「この池一杯になった前の日、葉はいったいどのくらいの量だったでしょうか?」
答えは簡単ですね。 「半分」です。 蓮の葉が池の全面を覆う前の日には、葉は池の表面の半分しか占めていなかったわけです。そして、更にその前の日、すなわち2日前には、4分の1にしかなかった、ということになりますね。
濾過バクテリアが蓮の葉と同じとは言えませんが、分裂しながら増加していくことを考えれば、重ね合わせてイメージすることができますね。
さて、25度の淡水中の硝化バクテリア、すなわち水槽内のバクテリアは、「水の浄化」に関する専門書などによると、繁殖に適した条件の下だとだいたい1日で1回分裂するそうです。
そこで、新たに水槽をセッティングした場合のバクテリアの増え方を、以下のようなマス目を使ってイメージしてみたいと思います。といっても、もちろん実際の水槽の中でとはまったく異なるので、あくまでも「イメージ」です。
仮に、ある水槽で必要とされるバクテリアの数を、「512」だとします。つまり、右のマス目全体です。
ここに、初めバクテリアが「1」定着したとします。すると、1日後には、1回分裂して、こうなります。 2日後には、こうなります。 3日経過・・・ 4日・・・ 5日経過時点で、このぐらいに増えます。 ここで、一度、この「5日経過時点」を「最初の日」と比べてみてください。
最初の日
⇔ 5日経過時点 どうでしょう? どちらも、マス目全体からみるとずっと少ないために、たいして増えたようには感じません。
水槽の必要量=512に対して不足している数を見てみると、
初日は、「511」、
5日後は、「480」 です。必要数の「512」からするとぜんぜん足りません・・・。
ここまでから、セッティング初日からの4日経っただけでは、濾過不足がほとんど改善されていないことが分かります。 まさに「焼け石に水」です。
では、この先を見てみましょう。
6日経過時点では、こんな感じになりますね。 7日後は、ここまで増えます。 そして、8日が経過・・・ そして、9日後、ついに一杯になりました。
ここで、また比較してみましょう。
6日経過時点
⇔ 9日経過時点
今度はどうでしょう?
6日経過時点から、たった3日間でこれだけ増えています。
バクテリアの「不足」を見てみると、
5日経過時点は、「448」
9日経過時点では、「0」 です。必要量「512」に対して、5日経過してもまったく足りていなかったバクテリアが、そこからたった3日で、すべて充足するまでに増えました。
以上から、新しくセットした水槽の中では、バクテリアは時間に比例して直線的に増えるわけではないことが一目瞭然にわかります。
そして、この例で言えば、9日経過時点で魚を導入したと仮定すると、濾過バクテリアが、必要量に対して100パーセントになっているので、アンモニアなどの問題は生じないことになります。
ところがその前日の8日経過時点で導入した場合を考えると、濾過能力は必要量の半分しか存在しないわけですから、導入された魚がアンモニア中毒や亜硝酸中毒で死んでしまっても、おかしくはないわけです。
このように、以上からは、「最後の方は、たった1日の差が大きな差になる」ということがよくわかっていただけると思います。
(但し、実際には1日ぐらいの濾過不足状態なら魚は耐えられるので、これは、あくまで理屈の上での話しです)
さて、ここまではバクテリアが殖える方向で考えてきましたが、逆を考えてみたいと思います。すなわち、水換えや掃除などで、バクテリアを減らしてしまう場面です。
実際に水草水槽を維持している者にとっては常識ではありますが、水槽の水を毎日1/2交換すると、アンモニアによる害は防げても、バクテリアによる濾過能力は壊滅的になってしまいますね。
このことは、次のような可能性を示しています。
すなわち、1.実際の水槽の中では濾過バクテリアの分裂は1日に1回も行われていない、2.全体の1/2量の換水でもバクテリアは1/2以上死滅している、3.換水が直接的にバクテリアを殺しているのではなくても換水に起因する他の要素により1/2以上死んでいる、などの可能性です。
但し、1の点については、家庭で自分で確かめることは事実上不可能ですし、水浄化や微生物研究の専門家の方々が複数、そうおっしゃっていることからして、1日に1分裂する、ということを前提にした方が間違いがなさそうです。したがって、一番の懸案は、「全体の1/2量の換水でも、バクテリアは直接的・間接的に1/2以上死滅しているのではないか」という点です。
これを具体的に考えてみましょう。
仮に、うまく回っている水槽がここにあるとします。その水槽は、1週間に1度1/3の換水でうまく維持できています。そして、その水槽内には、収容されている生体に見合った1,000個のバクテリアが棲み付いているとします。
ここで、この水槽の1/2量の換水をしたとします。換水のみで、フィルターや底床の掃除はしません。
この場合、どのくらいバクテリアが減ると思われるでしょうか?濾過の中心となるフィルターや底床をいじってないのだから、最大でも1,000個の半分、500個ぐらいにしかなってないと思われますね。
では、その24時間後にも同じように1/2の換水を行ってみます。濾過バクテリアが理屈通り1日に1回の分裂を繰り返しているのなら、バクテリアの数は、24時間後には元の1,000個に戻っているはずです。
では、その次の日も同じように1/2の換水をしてみます。前日の換水から24時間経っているのなら、バクテリアの数は1,000に戻っているはずです。
そして、その次の日も、そのまた次の日も、同じペースで換水を連続して行います。
このように連続して毎日換水しても、24時間空けている限り、理屈の上では、バクテリアは毎回、分裂によって元の1,000個に戻っているはずで、濾過能力には大きな影響はないはずですよね。生体も、濾過バクテリアが再び必要量に戻るまでのアンモニア類の一時的な増加にぐらいなら十分耐えられるはずです。しかし、実際に水槽を維持してみると、こんな理屈通りにはいきませよね。1/2どころか、1/3だけの換水であっても、毎日連続しておこなうと、濾過能力が極端に不足するようになるのは、みなさん、経験上ご存知だと思います。
したがって、上で述べた通り、1/2や1/3の換水であっても、バクテリアは1/2あるいは1/3以上のダメージを受けているのではないか、と私は考えています。
こう考えると、今までの自分や他の方の経験とも整合します。
例えば、
「1/3ぐらいの換水なら少々塩素中和をいい加減にやっても大丈夫」という経験です。
このような経験は多くの方がお持ちだと思います。(プランクトンなどへの影響はここでは脇に置いておきます)
このとき、仮に、全バクテリアのうち、1/3を大きく超えるその3/4が死滅していたとしても、もし1日に1分裂しているのであれば、48時間後にはバクテリアは元の数にまで回復しているわけです。水槽の中の生体も、このぐらいの時間なら、アンモニア類の一時的な増加にも十分耐えられるはずですから、見た目には、まったくバクテリアのダメージには気付かない可能性がおおいにあるわけです。 とすれば、この換水によって、バクテリアが換水量以上のダメージを受けているとしても、私たちのこの経験とは矛盾しません。
そして、換水量以上のダメージを受けていると考えれば、「1/3分の換水を毎日連続して行うと濾過能力は致命的なダメージを受ける」という経験にも合致します。
以上、ここまで、濾過バクテリアの増減の仕方について、そのベースとなるイメージをつかむことを目的に検討してきましたが、いかがだったでしょうか。色んな要素が絡むところなだけに、触れることさえためらわれる点ですが、少なくとも「直線的に増えるのではない」ということには同意していたけだけるのではないかと思っています。
最後に、ここまでの話しをまとめ、敷衍させると以下のようなことが言えるのではないでしょうか。
・ 濾過能力は時間に正比例してのびるものではない ・ 濾過にダメージを与えることも、1回や連続2回ぐらいまではなんとかなる
・ しかし、繰り返しやると致命的
・ 新規立ち上げの時、魚の導入で大事なのは、濾過の仕上がりの見極め
追記
フラスコ内などの実験的な条件下での増殖の仕方は、’うみさかなさん’から頂いた情報によると、以下のようなイメージになると推測されます。
・最初はゆっくり増え(導入期)、
・次に活性が上がるのもあって急激に増加し(対数増殖期)
・水槽内の環境による制約の枠で頭打ちになる(定常期) というイメージです。
通常、「水槽が立ち上がった」と言われるのは、最後のかま首の部分に到った時点です。