底床材に求められる条件
 


 01.03.24 01.03.25(15)(16)を追加 02.05.10デザイン変更 


 

1.先入観にとらわれた条件の挙げ方

 前稿では、底床材は「大磯かソイルか」という視点からではなく多極的にとらえられるべきだ、というお話しをしました。
 そこで今回は、「じゃあ、そのたくさんある底床材の中からどのようなことを考慮して1つを決定すれば良いのか」という、「底床材に求められる条件」について考えてみたいと思います。
 言い換えれば、「どこをチェックして選べばよいのか」ということです。

 経験者であれば、誰もがすぐに挙げるのが「水質への影響」でしょう。
 では、この他にはどんな条件=チェック項目があるでしょうか?ここから先を読む前に、まずご自分で、思いつく条件を全部挙げてみて下さい。「めんどくさー」と思ってもやってみて下さいね(^^)

 

 いかがでしたでしょうか?いくつ挙がりましたでしょうか?

 みなさんに先に考えて頂いたのには訳があります。「底床材に求められる条件」についての記事は、月刊誌などにもよく載っているのですが、私から見ると挙げられている条件に「偏り」があるからです。

 例えば、ある記事には、条件として「1.根張りの良さ 2.バクテリアの定着性 3.水質の安定」が挙げられていました。これらは「ソイル」の特長に重なる条件のみで、ソイルの短所にあたる「再利用の容易さ、安価さ、掃除のし易さ」などは、条件として触れられてもいません。
 また、ある記事には、「1.水質を変化させない 2.根張りの良さ 3.再利用可能」が、条件として挙げられ、細かい川砂の一種が勧められていました。しかし、「掃除のし易さ、入手の容易さ、汚れの目立ち方」など、川砂に共通する弱点については、一切触れられていませんでした。

 このような条件の挙げ方をされるのは、おそらく筆者の頭の中に「ソイルがお勧め」という先入観や、「川砂を勧めたい」という意識があるためだと思われます。しかし、読み手としては、このような記事を見ると、つい公平な記事だと思ってしまいます。 そこで、先にみなさんに自分で考えていただいたのですが、どうでしょう?偏り無く挙げられたでしょうか?メーカーの宣伝などに洗脳されてはいないでしょうか?

 

 では、以下、私が考える条件=チェック項目を挙げていきたいと思います。
 ただし、もちろんこれは「私=すいらくが」考える条件ですから、「正解」というわけでは決してありません。「これも挙げるべじゃないか!」という条件がありましたら、ぜひ掲示板やメールでお知らせ下さい。

 それでは、できるだけ「偏り」が生じないようにバランスよく総合的に挙げてみようと思います。

 

2.水草水槽の底床材に求められる条件

 

(1)水質への影響

 もっとも重要な条件です。そして、この条件には2つの方向性があります。1つは、自分の望む水質へ自動的に変化させてくれる底床材を選ぶ方向です。自動的に弱酸性の軟水にしてくれるソイル系の底床材がその例です。もう1つは、自分で自分の望む水質に調整したいために底床材自体は水質に影響を与えないものを選ぶ方向です。石英を主体とした底床材がその例と言えます。
 この2つの方向については、必ず予め、自分はどちらでいくのか決めておかなければならなりません
 パールグラスやハイグロフィラを植えてポポンデッタを泳がせた水槽にソイルを用い、「ぬぉおー!ポポンデッタがすぐ死によるー!」と叫ぶことになったり、トニナやケヤリを植えてネオンテトラを泳がせている水槽に大磯砂をそのまま敷いておきながら「こら、トニナ!なんで大きゅうならへんのじゃ!」と怒るような羽目に陥らないためにも、材質レベルからしっかりと検討しましょう。ちなみに、商品説明に「水質に影響を与えません」と書いてあっても、実際は影響を与える底床材も少なくありません。要注意です!
 また、この条件に関わるものとして、イオン交換性と、保肥能力があります。
 ソイルなどの土系の底床材や、これを焼き固めたセラミック系の底床材などには、イオン交換を行う作用が認められています。この作用によって硬度物質が吸着され、水が弱酸性の軟水になったり、肥料など栄養素が周りに蓄えられたりします。したがって、このような効果を期待する場合には、上の1つ目の方向性を選択しなければなりません。
 以上、ここまでを換言すれば、「自分の望まない水質へ変化させるような底床材は選ばない」、ということになります。

 

(2)草体の支持

 特に植えたばかりの水草は根をはっていないために、自分で自分の体を支えることが難しいです。したがって、底床は草体をしっかり支えるものでないといけません。あまりに薄くしか敷いていない場合はもちろん、比重の小さいものは厚く敷いても草体を押さえきれないので不向きです。特に高さのあまりない小さな水槽に敷く場合、この点をよく考えて選ばないと、「草体を支えてくれる厚さまで敷いたら、底砂が水槽の半分まできよったがなぁ〜」なんてことになりかねません。(ちょっとオーバー)
 したがって、比重は大きいものが望ましいといえるでしょう。

 

(3)植栽のし易さ

 草体の支持性と併せて検討すべき条件です。比重が大きくても、粒が角張って鋭利なものは、植えるときに草体を傷つけてしまいます。また、粒が大きすぎると隙間も広くなるため、植えてもすぐに抜けてしまいます。前景一面にグロッソスティグマを敷き詰めるつもりの場合などは、この点をよく検討しておかないと、「植えても、植えても、抜けてきよる! ぅおりゃ、おりゃ、うおぉりゃぁぁあ〜!」と発作を引き起こす危険を招来します。
 したがって、粒は適度な大きさで、鋭利な角が無いことが求められます。

 

(4)根張りの良さ

 一般には、この条件は重要なものとして挙げられています。この条件を満たさない底床材だと、水草の生長に影響があると言われています。
 しかし私としては、この条件はあまり重要でないと考えています。その具体的な根拠の一つ一つについ
ては、また機会をみて検討してみたいと思っていますが、その一番の根拠は、「長い間やってきて、根張りが悪いから水草がうまく育たない、なんてことを経験したことがない」というところにあります。根張りが良いと一般に言われているソイルが発売されるまでは、多くの人が大磯砂などで水草水槽を維持してきましたが、「根張りが悪いからうまくいかない」なんてことはほとんど問題になりませんでした。「問題になったからソイルが発売された」、ではなく、「発売されてからそのようなことがさかんに言われるようになった」、というのが実際に近いのはないでしょうか(もちろん例外はあり)。

 

(5)色

 この条件は主観によって左右されるものなので、客観的な基準を示すことはできません。自分の好みの色や質感のものを条件にすれば良いと思います。ピンク色でも、むらさき色でも良いと思います(笑) 但し、どんな色のものを選ぶか決める際に考慮しておくべき点がいくつかあります。
 ・ 水槽にセットすると、乾燥状態のものよりも色が濃く見える
 ・ 照明をどんなもの(波長・種類など)にするかによって、見える色は大きく変わる
 ・ バックスクリーンの色、水草の色との組み合わせについても考える
 ・ 底床を複数種類重ねると、前面に断面が見えるため時間の経過によって崩れも見える
 ・ 赤や紫などの底床は魚や水草が地味に見える
 ・ 白っぽい底床や光の反射の強い底床を使うと、魚が環境に同化しようとして白っぽくなる
 ・ 白っぽい底床は、(光の照り返しを好まない水草もあるが)光量を補う効果がある
 ・ 白っぽい底床は、汚れが目立つ

などの点です。
 これらを考慮して自分の好みの色や質感のものを探すと良いと思います。一般には、茶色から黒のものが好まれています。

 

(6)コケが目立たない

 どんなにコケを発生させないように気をつけている水槽でも、長期間維持していると、底床にはなんらかのコケが必ずついてきます。ごくわずかながら藍藻もつきます。これらは、底床材の粒が大きければ大きいほど目立ちます。また、色の薄い底床材の場合もよく目立ちます。
 粒の表面は、滑らかな方がコケなどがつきにくいです。
 したがって、コケが目立たないという観点から色の濃いもの、つきにくいという点から表面が滑らかなものが望ましいことになります。

 

(7)バクテリアの定着性

 メーカーの売り込み文句には、「バクテリアが繁殖し易い底床」といったものがありますが、私の経験上、底床の形状によるバクテリアの定着し易さが水草水槽の維持に影響したことはありません。底床内のバクテリアの活性は、底床材の種類や形状よりも、その隙間に入り込む有機物の取り扱いの仕方や、換水の仕方、植栽する水草の種類などの方に、圧倒的に影響されると感じています。
 したがって、単純に考えれば有機物を潤沢に含み多孔質のものがバクテリアの繁殖・定着の為に良いことになりますが、そんなに気にすることはない、と私は思います。

 

(8)保温性・好気性(通水性)

 これらの要素も「底床が腐るから」などと言って、よく底床に求められる条件として挙げられます。しかし、私は気にしていません。これらで問題を感じたことはまったくないからです。これらの条件を満たすように底面ヒーターや底面濾過を設置したときも、設置した場合との目に見える差は確認できませんでした。何回か繰り返して見ましたが差は無かったです。

 

(9)濁りの発生

 濁りの原因には、微生物の大量発生、色素の溶出、粒子の巻き上げなど、さまざまあります。しかし、市販されているものの中で、底床材の種類による濁りの発生に気をつけないといけないものは限られています。したがって、これらを用いるときのみ濁りの発生に留意していれば足ります
 具体的には、有機物がたくさん含まれている「アクアプラントサンド」「パワーサンド」、色素が使用初期に出易い「クオーツサンド ダークブラウン・ダークグレー」、粉塵がなかなかおさまらない「アクアソイル マレーヤ」などです。
 但し、底面濾過式など、底床の中に水を通す場合は、これら以外のものでも問題が起きる場合があります

 

(10)掃除のし易さ

 底床中に埋め込んだ肥料のカスを抜き取ったり、極端に底床を汚してしまったりした場合は、「プロホース」などで底床を掃除することになります。その掃除のし易さということを考えれば、底床材の粒はある程度大きい方が助かります。粒が小さくてさらさらした砂だと、水と一緒に排出してしまうからです。土についても同じです。
 したがって、粒がある程度大きいものがお勧めです。具体的には、7厘以上だと掃除し易いです。但し、土(ソイル)は、もともと掃除をしないことが前提となっているので、「ソイルだと掃除しにくい」という批判は、当たっていません。”掃除のし易さ”という条件は、ソイル系以外の底床材でのみ検討すれば足ります

 

(11)再利用のし易さ

 ソイルが用いられる場合の最大の理由は、そのイオン交換などによる硬度物質の吸着への期待です。したがって、「もうこれ以上吸着できまへん」となったら、底床を入れ換えるしかありません。したがって、この条件を検討しなければならないのは、ソイル系以外の底床材の場合のみです。

 

(12)価格

 どんなに優れた底床材でも、目が飛び出るくらい高価であっては、利用は非現実的です。但し、安価であっても、再利用できないものだと、長期的には高くつく場合もあります。
 また、ソイル系などの底床材は、購入した状態そのままで使用を開始できますが、貝殻をたくさん含んだ大磯砂を軟水水槽で使う場合などには、使用前に酸で貝殻を溶解させる処理を行わなければならない場合があります。
 したがって、この条件については、前処理の手間や、再利用のし易さ、維持に必要な手間、ということも併せて検討しなければなりません

 

(13)入手のし易さ

  再利用を繰り返し、長期間維持していると、「もうちょっと大きな水槽に買い替えよう」という場面もあるかと思います。そのときに、不足する分を探してみたら、「もう製造中止です」と宣告されることがあるかもしれません。そうなったら、全部交換するしかなくなります。
 一方、「これから始める」という場面では、手に入らないものは問題も発生しないのだから(当たり前!)、この条件は検討する余地がありませんね(笑)

 

(14)餌や汚れの潜り込み

 意外に触れられることの少ない条件です。
 底床材の粒が大きい場合、底まで落ちていった餌が魚に拾われること無く、隙間の奥底へ潜り込んでしまいます。もちろん、もぐり込んでしまったものも、いずれは分解されるので、それ自体は問題はないのですが、魚が捕食できなかった分、余計に餌を与えなければならなくなる点が問題になります。その分、富栄養化を引き起こし易いからです。
 したがって、粒は小さい方が潜り込みは少なくなりますが、逆に、掃除しにくいということにもなります。この点は兼ね合いが難しいです。

 

(15)魚・エビの活動との相性

 魚・エビとの組み合わせの良し悪しは、底床の水質への影響という観点の他に、魚やエビの活動の仕方とも関わってきます。たとえば、大きな粒の底床とコリドラスとの組み合わせは、うまい組み合わせとは言えません。また、ビーシュリンプと大きな粒の底床との組み合わせも、良いとは言えないです。
 このような魚・エビの活動域や餌の取り方も、底床材選びの条件の1つとして検討されなければなりません。

 

(16)水草の生長の仕方との相性

 水草の好む水質はもちろん、その生長の仕方も考慮に入れるべきです。たとえば、テネルスやコブラグラス、グロッソスティグマといった前景向きの草を密植させたレイアウトを作る計画なら、底床材は5厘以下の粒で無いときれいに密植させることは難しいです。7厘の粒でも、ややまばらにみえるくらいにしか生えません。また、たとえば芋の仲間は、栄養の吸収の仕方から土(ソイル)系の底床材との相性が良いです。
 このように、水草の生長の特性との相性も考慮に入れる必要があります

 

(最後に) 妥協点を見つける

 ここまでに挙げた条件をすべて検討していくと、その条件によって、望ましい底床材の形態が正反対になるものがありますね。例えば、「粒の大きさ」については、”コケの目立ち易さ”から言えば小さい方が望ましいですが、”掃除のし易さ”から言えば大きい方が望ましいわけです。
 したがって、「どのくらいの大きさの粒が良いか」という具体的な結論は、その両方の要請の妥協点を自分で見つけなければなりません。その場合、「自分が何を重視するのか」という視点から、すべての条件に番号を振って優先順位をつけると、妥協点が見つけ易くなると思います。

 

 以上のすべての条件を検討した上で用いる底床を決定すれば、水草水槽の失敗はぐっと少なくなるはずです!

 



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