水草水槽のための底床材を考える
 


01.03.03 02.04.22デザイン変更


 

 「水草水槽に適した底床材は何か」という質問に対する答えとしては、現在のところ、2つの答えで大勢を占めています。1つは「酸処理を施した大磯砂」。もう1つが「ソイル」です。
 多くの本やHPで、このどちらか、または両者の使い分けが勧められています。

 そこで今回は、水草水槽のための底床材を考えるにあたり、まず、前者の底床材すなわち「酸処理を施した大磯砂」について考えるところから始め、次に、「ソイル」につき検討し、そして「両者の位置付け」をイメージするところまで進んでみたいと思います。


1.大磯砂に酸処理を施す理由

 まず、なぜ大磯砂(=フィリピン砂、南国砂)を、酸処理せずにそのまま使ってはいけないのでしょうか?
 この質問に対する答えは、すぐに見つかると思います。そうです、混入している貝殻や珊瑚のカケラが、水草水槽で使っているうちに溶け出すからです。

 では、なぜ、溶け出してはダメなのでしょうか?
 それは、ご存知のように、溶け出したカルシウム分などが水槽内の水の硬度を上げ、水草に合わない水にしてしまうからですね。

 それでは、そもそも、なぜ手間の掛かる酸処理なんか必要な大磯砂を使うのでしょうか?
 山にも川にも砂はたくさんありますし、これらの砂には貝殻や珊瑚のかけらも入っていません。なのに、なぜ、酸処理という手間まで掛けてまで大磯砂を使うのでしょうか?

 「使い捨てにならない」「再利用できる」というのは、理由になりませんね?これらは、ソイルに対する大磯の有利な点であって、川砂や山砂に対する有利な点ではありません。

 私は、ここのところを突き詰めて考えていくと、「水草水槽に適した底床材とはどういうものか」、という「基準」や「条件」といったものが見えてくるのではないかと思っています。


2.大磯砂がよく勧められる理由

 さて、この「川砂など、他の砂ではなくて、大磯砂がよく勧められる理由」ですが、私なら、「総合点が高いから」という理由を挙げます。底床材に求められる条件には色々あります。大磯砂には、それらの条件のほとんどで、合格点をつけられるからだと思います。
 ただ、最大の弱点が一つあります。「カルシウム分で水槽水の硬度を上げる」という点です。そこで、これを解決するために酸処理を施すわけです。こうすれば、その弱点も克服され、大磯砂は、水草水槽で万能に近い底床材となるわけです。

 しかし、ここで新たな疑問が湧いてくると思います。
 「大磯砂が万能に近いなら、なんでソイルなんかが売れるんだ?みな大磯砂を使うはずじゃないのか?」という疑問です。
 「貝殻などが含まれているから大磯砂が使われにくい、という理由なら、貝殻などを酸処理で取り除いた大磯砂を売れば済む話しで、使い捨てになってしまうソイルなんか、わざわざ広めることはないのではないか?」と、思いますよね。(思いなさい!(笑))

 私は、この疑問をよく考えていくと、今度は、「水草水槽用底床材の中での大磯とソイルの位置付け」というようなものが見えてくるように思います。


3.ソイルがよく勧められる理由

 酸処理した大磯ではなくソイルを用いる場合、その理由は何でしょうか。ソイルには、みなさんがご存知の通り、「使用前の洗浄が要らない」などの取り扱い上のメリットに加えて、「弱酸性の軟水を実現できる」というメリットがあります。他にも、色合い、水草の根の張り具合など、いくつかの長所が挙げられますが、最大の長所は、やはり先に挙げた「弱酸性の軟水が実現できる」点だと思います。特に最近は、トニナやケヤリといった南米産の水草に人気があるので、この「弱酸性の軟水が実現できる」という特長をもつソイルが重宝されています。
 すなわち、ソイルは、「南米産水草に代表される弱酸性の軟水を好む草向けに特化された底床材」と言えます。ここにおいでのみなさんならもちろんご存知かと思いますが、ソイルを使うと、中性から弱アルカリ性を好む水草、カルシウム分を多く要求する水草は、うまく育たないことが多いです。もちろんベテランの方なら対処方もご存知で、簡単にクリアしてしまうような問題だとは思いますが、実際、バリスネリア スピラリス、アンブリア、メキシカンバーレーン、ハイグロフィラ、パールグラスなどは、ソイルで育てるのが難しいですね。これらが好むように水質を維持するのは、至難の技だと言えます。
 つまり、ソイルは弱酸性の軟水を好む水草にはピッタリの底床材ではあるけれど、そうでない水草には向かない、ということです。


4.両者の違い

 では酸処理した大磯砂は、というと、このような中性付近を好むバリスネリア スピラリスやアンブリアでも、きれいに育てる事ができますし、一方で、弱酸性を好む南米産の水草も、きれいに育てる事ができます。
 ただし、大磯砂だと、どちらの場合でも、それなりに自分で水質調整する必要があります。中性からアルカリに傾けるには、たとえば珊瑚砂を加えたりする必要がありますし、酸性側に傾けたいならCO2を添加するなどの措置が必要になります。

 このように、酸処理済み大磯砂では、ある程度は自分で水質を調整する必要があるのに対し、ソイルの場合は、水を入れるだけで自動的に弱酸性・軟水が出来あがるわけです。

 ここまでで、上述の質問、すなわち、「酸処理した大磯砂ではなく、ソイルが普及する理由」に対する答えが見えてきます。

 大磯砂は、融通はきくけれど、水質調整にそれなりの手間が掛かる 

 ソイルは、弱酸性・軟水の水質を簡単に実現できるが、融通はききにくい、 ということです。

 

5.大磯砂とソイルの位置付け

 上の結論は、「大磯か、ソイルか」という2極対立の関係ではない、ということを示していると言えます。

 これをわかり易い例で言ってみましょう。

 たとえば、台所で使う包丁です。包丁には用途に合わせて様々なものがあります。柳刃、出刃などの形の違いや、片刃、両刃など刃のつき方にも色々違いがあります。家庭では、何にでもそれなりに使える、いわゆる文化包丁が多く使われていると思いますが、魚を三枚におろすなら出刃包丁、刺身なら柳刃包丁、というように使い分けておられるご家庭も多いかと思います。

 底床材を、この「包丁」に重ねてみると、何にでもそこそこ使える文化包丁にあたるのが大磯砂、刺身を引くのに使う柳刃包丁にあたるのがソイル、という感じになります。
 文化包丁でも刺身を引くことはできますが、柳刃の方がもちろんうまくできます。しかし、野菜を切るとなると、文化包丁は、菜切り包丁ほどの使い勝手はないにしろ、それなりに使えますが、柳刃で野菜を切るのは、できないことはないですが、大変難しいです。これは、柳刃が刺身を引くなどの用途に特化された道具だからです。

 このとき、「何にでも使える文化包丁があるのだから、柳刃は要らない」ということにはなりません
 文化包丁は、いろいろ融通がきき刺身も引けますが、刃渡りが短いため切り返しせずに引くことは大変難しいです。一方、柳刃包丁は、刺身をうまく引くことはできますが、野菜を切るなどの融通はききにくいです。

 ただし、包丁には文化包丁と柳刃包丁しかないわけではなく、「文化包丁か、柳刃包丁か」という2極対立の図式にはなりません。ある用途に特化されたものには、他にも、牛刀、菜切包丁、出刃包丁、ぺティナイフなど、様々あるからです。

 これと同じように、底床材の場合も、弱酸性・軟水の水草用に特化したソイルの他にも、根張りと耐久性という要素に特化した川砂や山砂、中性・弱アルカリ性の生体向けに特化したセラミック砂などが存在します
 すなわち、「大磯砂かソイルか」という、単純な2極対立の構図ではないということです。

 以上を視覚的にあらわそうとすると、ちょっと無理がありますが、次のようなイメージです。

 図の上半分は、よくある2極的な捉え方ですが、上述した通り、この捉え方だと、酸処理済み大磯がセラミック系砂や川砂などよりも勧められている現状を説明できません

 図の下半分は、オールラウンド的な大磯を中心に、底床材に要求される様々な条件に焦点を合わせた各種の底床材が存在する現状を示したものです(特化している「条件」は例示)。大磯−ソイルという2極的なイメージではなく、それぞれ特長をもつ底床材が多極的に存在しています。
 このように捉えると、酸処理済み大磯砂の使用がよく勧められている現状を説明できます。また、いくつもある底床材の中で、ソイルがよく取り上げられているのも説明できます。理由は単純。「今、人気のある水草が南米産だから」です。もし、トニナやケヤリといった南米産の牽引役があらわれず、別の、たとえばアジア産のスター的水草があらわれていたら、「セラミックか大磯か」といった注目のされ方をしていたと、私は思います。


6.この情報が役に立つ場面

 さて、ここまで検討したところで、「こんなこと知って、何の役に立つんやろ?」という疑問も湧いてきたのではないでしょうか?

 実は、こんなことを分かっていても、たいした役には立たないかもしれません。(^^ゞ
 しかし、このようなことがわかってないと、「ヘンなこと」になり易いのです。たとえば・・・

Q: 「バリスネリアがうまく育ちません。なぜでしょう?底床はソイルで、CO2も添加しています。」

A: 「ソイルではカルシウム分が不足して、バリスネリアを育てるのは難しいです。うまく育てるには底床に大磯砂を用いると良いでしょう」

 このQ&Aは、私が実際に、ある本で目にしたものです。
 これですぐに気付くのは、質問者の思い違いです。弱酸性・軟水を作ることに特化されたソイルで、主に北半球の中性の水に自生しているバリスネリアを育てるのは、難しくて当然と言えます。バリスネリアをソイルで育てるのは、先の例で言えば、菜切包丁で魚を3枚におろそうとしているようなものです。この質問者の方は、どこかで「水草にはソイルが良い」と言われて素直に従っただけなのかもしれませんが・・・。
 さらに、回答の方も、あまり適切なものとは言えません。「大磯砂を使うと良い」ではなく、「弱酸性の水作りに特化した底床材以外のものならうまく育てられます」のような回答が正確だと思われます。ただし、後者のような回答は、質問者にあまり理解されないとも思われます。「弱酸性の水作りに特化した底床材って、ソイルのこと?ソイルってそうなの?ソイル以外って、大磯砂ってこと?ショップには『硅砂』とかいうのもあったけど、あれはダメなの?」と、新たな疑問を抱かせる結果になりがちです。新たな疑問を引き起こさないように、そして誤解のないように正確に回答しようとすれば、本稿でここまで述べてきたような内容を回答として長々と書かなければならなくなります。
 しかし、実際にはそんなことは不可能
です。したがって、この回答者も、先のような答えにせざるを得なかったのかもしれません。

 このように、大磯砂、ソイル、その他の底床材の位置付けを分かっていないと、上のような「当然自分で間違いに気付くはずの質問」をしてしまうようになり、そして、不正確な回答しか得ることができず、結果、水草水槽の維持がうまくいかない、というところへ突き進んで行ってしまうおそれがあるのです。

 

 以上、見てきたように、ソイルは「水を弱酸性・軟水にする」という条件を満たすよう特化された底床材ですが、水草水槽の底床材として求められる条件は、この条件以外にもいくつもあります。「水草を引き立たせる色合いである」「植栽時に根を傷めない形状の砂粒である」「肥料添加・保持に対して優れている」「底床掃除具で掃除できる形状である」・・・などなど、実にたくさんあります。

 そして、これら様々な「要求される条件」を知っていないと、自分に使用経験のない底床材を前にしたときに、その底床材が、どの条件を満たし(=長所)、またどの条件を満たさないのか(=短所)を自分で判断することができません。そうすると、都合のよいことしか書かれていない説明をそのまま信じて買うしかなくなるのです。(心あたりのある方もいらっしゃるのでは?)

 したがって、「水草水槽の底床材として求められる条件」について知っておくことも重要です。そこで、次にこの「条件」について、稿を改めて検討してみたいと思います。

 

 



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