ソイル類
 


01.07.08 01.07.14 01.07.15 01.07.19 01.10.11プラントサンド発売時期を修正、02.05.19デザイン変更 03.02.01なぐさんの画像を追加


 

 今回は、底床シリーズの各論、「ソイル類」についてです。

1.概観

 大磯砂に代表される「砂」や「礫(れき)」が水草水槽の底床の中心であった頃は、弱酸性の軟水を好む南米の水草を育てるのは難しく、ある程度の熟練が要求されました。そんな状況の中で、一部の方たち、特に園芸の分野から水草水槽に入って来られた方たちが実験的に導入して、南米産水草の育成に効果を上げていたのが、赤玉土や、焼結赤玉土です。

 その後、ニッソー社から水草水槽専用の底床材として売り出されたのが「アクアプラントサンド」です。これが水草水槽での「ソイル」の地位を押し上げました。

 現在では、ADA社の「アクアソイル」シリーズなど、ニッソー以外のメーカーからも水草水槽用のソイル類が発売され、ソイル類はすっかり私たちのお馴染みになりました。

 

2.ソイル類の特徴

 ソイルの類の特徴の第一番目は、やはり、水を弱酸性の軟水にしてくれる点でしょう。この作用のおかげで、南米産の水草が、誰でも育てられる草になりました。
 また同時に、
南米産の魚の飼育が容易になった点も見逃せません。南米産のアピストグラムマやディスカスなど、それまで軟水を用意するのに苦労していた魚種についても、ソイル類を底床や濾過材として使うことで、ぐんと飼育・ブリーディングが易しくなりました。

 このような、飼育水を軟水にしてくれる作用に加えて、ソイル類には水草や魚に必要な栄養分をバランスよく蓄え、それをバランスよく放出してくれる作用があります。これも、見落としてはならない大きな利点です。

 一方で、短所もあります。よく知られていることですが、ソイル類はアクアリウムではどうしても「使い捨て」になります。したがって、リセット時に水槽から取り出す苦労、捨て場所を確保する苦労も発生します。費用が若干かさむ、という短所も挙げられます。
 また当然のことながら、
中性〜弱アルカリ性の水を好む水草や魚などにはまったく向きません。「ソイルを使えばすべてうまくいく」というようなことは決してありません。

 

3.基礎的な知識

(1)「砂」と「ソイル=土壌」との違い

 砂とソイルの違いを押さえておくことは、その利用や管理に役立ちます。
 「
」は、簡単に言えば、単なる岩石の破砕物質です。岩が砕けて小さな粒になって集まっているものです。
 一方、「
ソイル=土・土壌」は、この岩石の破砕物質である無機物質に、植物遺体という有機物が加わり、更にこれに土壌動物微生物作用した(している)ものです。
 ここで植物遺体として加わる有機物は、主に
炭水化物・タンパク質・リグニンといったものです。

(2)団粒構造

 「団粒構造」とは、土壌の粒子が集まって団粒をつくっているものです。ソイル=土壌は、「団粒構造」という、ある程度の大きさの粒が集まったかたちをとるのが普通です。
 
団粒は、有機物土壌微生物の分泌物菌糸植物の根カルシウムアルミナなどが、土の粒子同士を結合させることで生成されます。そしてこのことは、逆に言えば、これら有機物やカルシウムなどが流出してしまえば団粒構造が崩れてしまうことを意味しています。したがって、田や畑では、団粒構造を維持させるために、必要に応じてワラ・石灰や有機物を撒いたり、牧草などを植え付けたりします。
 また、この団粒構造のおかげで、そこに
鉄・菌・各種の有機物・カルシウムなどが蓄えられ、その土粒子の隙間にもリン酸をはじめ様々な物質が入り込んで維持されるわけです。

(3)陽イオン交換

 土壌の固体分の表面にはさまざまな陽イオンが吸着していますが、ここに他の陽イオンを含んだ溶液を加えると、元から吸着していた陽イオンがある程度放出され、代わりに溶液中の陽イオンが吸着されることが知られています。
 土壌にこの特徴があるために、水草・作物は
バランスのよい栄養分の供給を受けることができ、よく育つことができるわけです。
 ちなみに、どれだけの陽イオンが交換されるか=どれだけバランスよく栄養分が蓄えられるかは、その土壌が含む粘土の割合や有機物の割合によって決まり、多いほど交換量も増える傾向にあります。


 ちなみにこのサイトでは、
大磯砂底床に、ある程度の有機物を溜めることや粘土草木灰木片を埋めることを、以前から少しだけ紹介しています。これは、上記のような基本的な性質の活用を狙って(というか、経験的に学んだのですが)のことです。土や粘土・灰などには、物質をバランスよく蓄えたり放出したりして、大磯砂から溶け出す物質と水草が必要とする物質のバランスを保ってくれるはたらきがあるようです。また、気体や液体を含んだ構造のために、有機物を好気的な微生物が盛んに分解することになり、結果、二酸化炭素などの供給も行われます。上述の通り、砂に有機物・微小動物・菌などが加わって「土壌=ソイル」を形成しているのですから、粒の大きさに違いはあるにしても、大磯砂にこれらを加えるのは、それなりに合理性があると言えると思います。
 このあたりの知識は、なかなかアクア本では紹介されないので、ぜひ農業関係の本や土壌学の本に一度目を通してみることをお勧めします。役に立つ情報をたくさん発見できるはずです。

 

 

4.代表的な商品と使用感

 使ったことのない商品や、一度しか使ったことのない商品についてコメントするのは無責任過ぎるので、ここでは何度も使ったことのある代表的なソイル類を中心にご紹介したいと思います。

(1)赤玉土・硬質赤玉土


18L、450円。
ホームセンターで購入。
 アクアリウムでは一番古くから使われていると思われるソイル類です。いろいろなメーカー・銘柄のものがあり、それぞれ少しずつ色合いや水質が違います。
 写真のものは近くのホームセンターで売られていたもので、大粒・中粒・小粒というラインナップのうちの「小粒」です。水草水槽には、この
小粒のものが使い易いです。この商品には、生ワラなどが多く含まれていて、私は気に入っています。
 ちなみに、この商品ではありませんが、安いときには18L、290円で売られています。60センチ水槽なら、これ一袋で十分で、たくさん余りがでるでしょう。

 また、関西では手に入りにくいのですが、焼結した「焼き赤玉土」も存在し、これもアクアリウムの底床として使われます。

 特長は、なんといっても安価なところです。また、概して、団粒構造が崩れにくいという点も魅力です。
 団粒構造が崩れにくいということは、まず、栄養分をバランスよく蓄積・供給する機能が長続きするということです。そして結果として水草が良く育つ、ということです。そして、底床としての
寿命が長いということになります。また、水の濁りのおさまるのが速い、ということでもあります。

 ただし、団粒構造がしっかりしていて、長持ちし、栄養分がたっぷりバランスよく蓄えられるがゆえの短所もあります。
 それは、藍藻などの発生のし易さです。「アクアソイル」に比べると、画像のように藍藻の発生量が多いです。また、ヒドラなどの微小動物も発生し易いです。赤玉土の、各物質をバランスよく蓄積・供給する作用のため、一部の生物だけが大繁殖することはあまりありませんが、気になる方には気になるでしょう。また、メーカーごと、品質にずいぶん差があります。

結論: 少々の難点には目をつむれるならお勧めです。但し、初心者なら「アクアソイル アマゾニア」の方をお勧めします。

(2)「アクアソイル マレーヤ」(ADA)

 ADAの「アクアソイル」シリーズの中では、もっとも色合いが明るいタイプです。また、粒が最も崩れ易い印象です。

 色合いの明るさから、軽い色彩の有茎草を使ったレイアウトに用いたいと思うことがよくあるのですが、この団粒の崩れ易さには閉口してしまいます。
 セットしたての水槽では、水草の植栽時に崩れてしまった粒の粉塵がいつまででも漂います。下手をすると2ヶ月経っても濁りがとれないことがあります。
 また、この粉塵がフィルターによく溜まります。フィルターへの吸い込みを防止し、同時に濁りを取る対策としては、フィルターの吸い込み口にテトラのP-1スポンジフィルターを着けるのがお勧めです。ただし、着けても細かい粒子はけっこうフィルターに吸い込まれますし、スポンジフィルター自体がよく目詰まりを起こします。
 セット後、3ヶ月が過ぎたあたりから、有機物のコロイドや菌の粘着物質が溜まり始めて最初ほど濁らなくなります。しかし、水草をちょっと植え替えただけで、また粉塵が舞い上がり、2〜3日濁りがとれません。
 そして、1年ぐらい経過すると、やっと、水草を抜いても濁りがスーっとおさまるようになります。

 ただし、1年経過した時点では、もはや団粒の大半は崩れてしまって、底床に指を突っ込もうとしても、なかなか入らないような状態になっているはずです。指を無理やり突っ込んで、今度は引き抜こうとすると、グポッ!という音とともにやっと抜けるぐらいに底床が硬い粘土状になっていることが多いです。
 また、有機物の含有量が若干少ないように感じます。

結論: どうしても明るい色合いのソイルが欲しい時以外には、私はあまりお勧めできません。

 

(3)「アクアソイル アフリカーナ」(ADA)   (修正:団粒の硬さについて 01.07.15

 いま手元にストックしていないので画像はありませんが、色合い・形状とも、上記の赤玉土によく似ています。
 「アクアソイル」シリーズ3つの中では、もっとも団粒が崩れにくい製品です。

 うちでは、明るい色合いの「マレーヤ」は自分のイメージ通りの水景を完成させるために使うことがありますが、この「アフリカーナ」は滅多に使うことがありません。色合いが赤玉土と似ているため、この土を買うぐらいなら、ずっと価格の低い赤玉土を買ってしまうからです。

 また、色合いは赤玉土と似ていても、こちらの方が有機物の含有量が少ない傾向にあります。

結論:この色合いが欲しいなら赤玉土で間に合うと思います

 

(4)「アクアソイル アマゾニア」(ADA)

 「アクアソイル」シリーズの中では、もっとも色が黒っぽい製品です。粒はアフリカーナに次いで崩れにくいです。また、使っていて、有機物の含有量も多いような感じがします。

 色合いが黒に近いため、水景を引き締めた印象にしたいときに便利です。
 加えて、団粒が崩れにくいことから、比較的寿命が長いです。
 濁りについても、いったん粉塵が舞い上がっても、わりと短時間で濁りがおさまります。有機物のコロイドが多いせいかもしれません。


結論: 総合点でイチオシの商品です。
色合いによって、赤玉土と、このアマゾニアを使い分ければほとんどの場面で足りるはずです。
 お勧め!

 

(5)「アクアプラントサンド」(ニッソー)

 画像がありませんが、みなさんご存知ですね。

 水草水槽用のソイルとしては、もっとも肥料分を含んだ商品だと思います。ADAの商品が、「パワーサンド」をソイルの下に別途敷くことで肥料分を補う、ということを前提にしているに対し、この「アクアプラントサンド」はこれ単体で肥料分を賄えるようにできています。
 ただしその分、セット初期にコケや藍藻が発生し易くなる短所があります。セットした直後からしばらくは、ふつうよりも頻繁に少量ずつの水換えを行わなければなりません。

結論; 液肥を吸わせたり肥料を加える手間が省ける商品です。ただ、セット前に「アフリカーナ」や赤玉土に液肥を吸わせておけば、同じとは決して言えませんが代替物になり得ます。

 

5.ソイル類についてのミニコツ

(1)寿命について

 既にお話ししましたが、ソイル=土壌が効果的に作用するには団粒構造を生成していることが大切です。この構造が崩れると、間隙に入り込んで保持されているもの(例えば陰イオンの物質)に期待できなくなります。したがって、団粒構造が完全に崩れてしまった場合は、そのソイルの寿命が尽きたと言えます。ただこの場合は、そこまで完全に崩れる前にだんだんと水質が変わってくるので、それまでに気付くのがふつうです。
 また、ソイルは有機物やそれを分解する菌などが、その重要な要素となります。これはつまり、菌や微小動物による有機物の分解が進むと、それまではあったソイルの作用がみられなくなる、といことです。したがって、ソイルに含まれている有機物の量がわずかになってしまったときも、そのソイルの寿命が尽きたと言えます。
 これらが陸上の話しであれば、そこに生ワラやレンゲ草を混ぜ込んだり家畜の糞尿を撒いたりすることで土壌=ソイルに有機物を補給できます。そしてその有機物のおかげで菌や微小動物が活動し続け、その菌糸や分泌する粘着物質でさらに団粒構造の生成が促進されます。そしてその結果、土壌の「栄養素をバランスよく保持・供給する」という優れた能力が維持されるわけです。
 また、陸上では石灰なども補給することもよく知られています。団粒構造の生成・維持にはカルシウムなども必須だからです。水槽内では、このカルシウム分は水中から補給・吸着していますが(だから軟水になる)、一部はカリと置き換わり易い性質もある(これは植物にとってはありがたい)ので、一気にカルシウムを減らすようなことをすると団粒構造が崩れ易くなる危険があります。

寿命が切れた「アクアソイル マレーヤ」。
団粒がほとんど見られなくなっています。 (010719画像追加)

 

こちらは、なぐさんからお寄せいただいた8年以上経っている「アクアプラントサンド」の画像。
上手に維持すれば、これだけ団粒構造を残すことも可能です。

(2)底床掃除について

 ここまでで既に分かっていただけたかと思いますが、ソイルは「団粒構造が命」です。
 この構造のおかげで 1.軟水・弱酸性の水 が実現でき、 2.栄養分のバランスよい維持・供給がなされるわけです。
 したがって、ソイル類を使った場合の維持管理では、1.団粒構造が維持されるように有機物などを補給することと、2.団粒構造を崩さないようにすること、の2点を心掛けなければなりません。
 そうすると、ソイル類を底床に使った場合、その団粒構造を崩してしまう底床掃除は「ご法度」という結論が自然に導かれるはずです。メーカーも、ソイルについては「底床掃除は不要」と言っているはずです。(私としては「不要」ではなくて「ダメ」だと思うのですが)
 ちなみに、「プロホース」などでソイルを軽く掃除すると、軟水にする作用が衰えてきたソイルが、軟水化する力を再び発揮し始めます。しかしこれは、団粒が崩れて現れた新しい断面にカルシウム分などが吸着されたためで、一時的な現象と言えるでしょう。それより、これで団粒が崩れてしまって、かえって寿命が短くなると言えます。
 ただし、寿命が近づいて軟水にする力がわずかしか残っていなソイルを、ちびちび使うよりは、一時的にでも、ぐっと軟水にしてくれた方がありがたい場合もあります。そんなときは、思い切ってビンの底などで底床を突いて粒をつぶしてしまっても良いと思います。でも、同時に色んな物質が中からでてくることに留意しなければなりません。
 また、ソイル類(特に赤玉土)をセットしたばかりの水槽では、底床の表面付近に藍藻などが発生し易いです。これは、底床の表層付近で、ソイル類に含まれている有機物が急激に分解されることが主因と思われますが、こんなときには「プロホース」などで、その藍藻がついた粒ごと吸い出してしまうのも良いと思います。

(3)有機物の補給について

 ソイルの機能を維持するには、だんだんと分解されてしまう団粒中の有機物を外から補給する必要があるわけですが、陸上と違って水中ではなかなか難しいです。最初セットするときにたくさん入れておくことも一法ですが、あとから追加する必要がある場合も発生します。
 方法の一つは、水草のトリミング時に、根ごと抜いてしまわずに底床の中に根を残しておくことです。また、テトラの「イニシャルスティック」のように木片や炭などを多く含んだ肥料を入れることも有効です。加えて、魚の排泄物餌の残り、水草の枯葉なども強力な助っ人となります。
 ただし、大磯砂に有機物を補給する時のように、魚のハラワタや死骸などまで入れるのはやめた方がいいです。過剰になります。(by失敗経験者)

(4)肥料分について

 ソイルに有機物を補給することが、すなわち肥料の補給にもなるわけですが、補給しなければならないものには、有機物以外の微量な金属なども含まれます。そこで、これら微量な金属元素や、有機物の補給だけでは不足する窒素・リン・カリ補給することが必要になります。
 そして具体的な方法ですが、お勧めは、「ハイポネックス」の液体シリーズの適当な商品を、注射器で土中に注入する方法です。
 注射器のシリンダーの方は、薬店や文房具店においてあることもあって、比較的手に入り易いです。しかし、問題は針の方で、これは法の規制もあって先のとがってないものしか入手できないはずです。そしてとがっていないものであっても、なかなか入手できないと思います。そこで、針に代わるものとして、細いストローを使います。あまり長くすると、ソイルに刺すときに折れてしまうので、最小限の長さに切って使います。折れた時のために予備も用意しておきましょう。
 注入する時は、濃い液を根に触れるところに入れてしまうと水草が枯れてしまいます。根から離れた、一番深いところに十分に薄めた液を入れるようにします。

追記01.07.14

でぱいゆさん、nobuhiroさんから注射器の入手方法について情報をいただきましたm(_ _)m

100円ショップ(ダイソー)で、注射器が手に入ります。
黄色と青の注射器は針の部分が長くて使い易いです。(でぱいゆさん)
右のは「スポイドセット」で、小さな漏斗とヘラとスポイトがセットになったものです。こちらは針が短か過ぎる感じです。
左の2つは、見るからに注射器なのですが、液体の移し替え用として売られているので、「スポイド」となっているところがびみょ〜です。

もうひとつ、ここには画像がありませんが、アクリル用の接着剤を詰めるための注射器(スポイト)が、ホームセンターなどで売られています。(nobuhiroさん)
たいていは、画像の一番右のようなタイプのスポイトですが、注射器型のものもあります。

ちなみに、東急ハンズの理化学用品売り場の「レジ」でも、先のとがってない針が手に入ります。180円ぐらいだったと思います。こちらはちょっと高いですが、金属製の本格的なものです。

6.最後に

 ソイル類は、アクアの世界でポピュラーになってまだ日が浅いだけに、流通している情報が、大磯砂などにくらべるとまだまだ少ないように思います。
 そこで、陸上での話しになってしまいますが、農業や土壌について書かれている本の中には私たちの役に立ってくれそうな情報がたくさん載っているので、これらの本に目を通すことをお勧めします。
 また、ソイル類についての新たな発見などがありましたら、ぜひ情報を交換して下さい。

 



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