■GOOD AQUA■

「一般的な」レイアウト制作過程
  


00.12.18

 
 アクアリウムの関連雑誌やメーカーのカタログでは、「プロによる」レイアウト水槽の制作過程がよく紹介されていています。
 しかし、私はそれらを見て前々から疑問に思っていることがあります。それは「その制作過程を一般の人がはたして真似できるのか?」という疑問です。
 制作過程の紹介に添えられている写真をよく見ると、実に色々な器具が使われています(メーカーのカタログの場合は当然ですが)。また、植え込まれている水草の量も半端ではありません。高価な水草が惜しげもなくふんだんに植えられています。また、その水草は購入してきたばかりの水上葉や半水上葉の状態のものではなく完全に水中に馴染んでいるものだったりします。頂葉も枝分かれして立派な株に育ってたりします。
 一般の人の中に、そういった写真に載っているのと同じだけの器具、そして同じだけの生体=それも水に馴染んだ立派な水草や魚を揃えられる人が、はたしてどれだけいるのでしょうか?店にある器具をどれでも自由に使えて、しかも店の水槽に入っている水草もどれでもどれだけでも自由に使える状態で制作しているプロの真似ができる人は、一体どれだけ存在するのでしょうか?

 少なくとも私はそんな贅沢な環境でレイアウトを制作していません。また、ほとんどの方がそうではないと思います。
 とすれば、今雑誌やカタログで紹介されている「レイアウトの制作過程」は、“たいへん特殊な例”だとは思いませんか?一般的な制作過程を紹介しているものだとは、私にはとても思えません。

 また、みなさんは初めて水草水槽をセットしたとき、雑誌やメーカーのパンフレットに載っている「セット〜完成まで」のように、1ヶ月や1ヶ月半でうまく完成させることができたでしょうか?
 私はもう長い間水草水槽をいじっていますが、雑誌やカタログに載っているようなきれいなレイアウトを1ヶ月半で完成させることは未だにできません。「私だけがそうなのか?」と思って何人かのベテランの方に聞いてみたこともありますが、どなたもやはり「できない」ということでした。単に「きれいな水草水槽」であれば、それなりのものが出来上がけれど、「最初に自分が頭の中に描いていた水景」を完成させるのは、1ヶ月半では到底ムリ、という結論です。雑誌やカタログのようにはうまくいきません。

 

 では、具体的には、どこに差がありその結果、水景の完成にも差が出てしまうのでしょうか。

 水草のレイアウトを作るとき、頭の中で、完成図から水草の生長を差し引いて植えていくのが普通です。ものの本にも、必ずそのように書かれています。
 
 しかし、実際に私たち一般の人間がレイアウトを考えて植えていくときは、そんなにうまくはいきません。 たとえば、「この区画はピンネイトで埋めたい」と思っても、予算の問題で、その区画が埋まるほどたくさんのピンネイトを買えない、なんてことはよくあります。 また、ロターラ ロトゥンディフォリアのように、先端が枝分かれして茂っていないと貧相になる草は、自分でピンチカットを繰り返して草体を整えるしかありません。ショップのレイアウト水槽に入っているような先端が枝分かれした格好の良い水草が売られているわけではないのです。

 したがって、私たちが実際に植栽するときには、単純に水草の生長を差し引いただけでは足りません。
 たとえば「ピンネイトが区画一杯に埋まるまで殖えるのにかかる日数」や、「その間に必要な肥料の追加のタイミング」、「トリミングによる草体の変化」など、様々なことを考慮しなければならなくなります。雑誌に載っているプロのように、ショップの中のものを何でも自由に使えるのとはまったく異なると言えます。
 結局、お金をふんだんにかけて初めから十分な水草の種類と量を揃えてからレイアウトするプロよりも、制約にしばられまくる私たちの方が、高度な技術を要求されるわけです。 ・・・と言うのは言い過ぎだとしても、雑誌に登場するプロよりも制約が多いのは間違いありません。

 そこで、以下、一般の人間がレイアウトを仕上げるまでに水槽がどのような経過をたどるのか、うちの水槽を例にして見てみたいと思います。
 特に初心者の方には、雑誌に載っている「セットから完成まで」の写真のようにはいかない、というところを見ていただけたら、と思います。

これが、初めに頭の中にイメージしていた水景です(自分用の走り書きなんで汚いのはご容赦下さい)。
 「シンプルで直線的な模様」を作りたいと思い、すっきりしたV字にすることにしました。そのために、全て有茎草にして、模様の単調さを色の変化でカバーすることにしました。
 レイアウトに使う水草は、新しく買う事はせず、すべて既にある水草で間に合わせることにしました。貧乏には当然のことです。( ̄^ ̄)フン

 というわけで、いよいよ、この完成イメージを目指してスタートです。

(セット〜1ヶ月の経過は、雑誌などでも見られるので省略します)

 1ヶ月が経過したところ。それなりに見えないことも無いけれど、完成度はまったく「×」です。あくまでも最初のイメージを目指します。
 全体の草の量は十分にふえましたが、赤い水草が足りないためにバランスが悪いです。「こんなとき、ショップの店主だったら好きなだけもって来れるのに・・・」と思うけれど、どうしようもないですね。
 特にボリュームが足りないマクランドラナローは、ピンチカットを繰り返していくことにしました。中央のミズネコノオは、一番に水面に達してしまったので、すでに植え戻してしまっています。
 ふえすぎた草はコントロールできますが、足りない草はどうしようもありません。すでに1ヶ月が経過していますが、ここから、やっと調整に入れます。
 さらに2週間が過ぎたところ。
 ミズネコノオがまた水面に達したけれど、ボリュームがぜんぜん足りません。赤系の草も水面に近づいて、やっとカットできるようになりました。
 しかし、全体として雑然とした感じで、最初の「シンプルで直線的な模様」とは、ほど遠くなってしまいました。
 そこで、もう少し赤系の水草が殖えたところで、もう一度植え直すことにしました。
 シャッタースピードが遅いために写真には写っていませんが、コケ取りを兼ねて、採取してきた黒メダカが20匹入っています。その他、ヤマトが20、オトシン5、ペンシル15が泳いでいます。
 さらに2週間が経過して、セットから2ヶ月となりました。
 ここまでの苦労がもったいないけれど、思い切って全体を植え戻しました。新しく水草を買い足さずに、水草のボリュームを確保しようとするあまり、このままではレイアウト自体が失敗になりそうだったからです。
 したがって、方針を変更して、ここからは区画の整理を優先することにしました。
(水面に見えているのはアマゾンフロッグピットの根とムジナモです)
 さらに2週間。7月末にセットしてから2ヶ月半経ち、このとき10月上旬。
 バクテリアも十分にふえたせいか、水草の生長スピードがみるみる上がってきています。あっという間に後景の水草の頭が水面に達してしまいました。
 区画を整理したおかげで、あとは水草のボリュームを出すことに専念すればいいだけという状態になっています。
 しかし、マクランドラのナローリーフとミズネコノオは相変わらず貧相です。
 ピンチカットを繰り返すこと約1ヶ月、セットから3ヶ月とちょっと。
 これで、やっと完成です!
 妥協せず、最初のイメージ通りに仕上げるには、ここまで時間と手間がかかりました。
 再スタートです。上の水景を楽しんだあとは、同じ水草を使って別のレイアウトに変更しました。有茎草は切り戻しが面倒なので、ここからは生長を抑えた維持をしていくことにしました。

 以上が、私の思うところの「一般的な」レイアウト制作過程です。

 



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