■GOOD AQUA■

どの維持方法が優れているか


01.02.04


  前稿では、水草水槽に色々な維持方法があり、それらは2つに分けることができるということを見ました。

 では、どの維持方法が優れているのでしょうか?

 今までにこのサイトの各稿で、私はある方法に対しては批判的なことを書いていたり、また別の点については肯定的なことを書いていたりしているので、だいたい分かっていただいているとは思いますが、私の結論は、

「それぞれ長所短所があるので、使い分けるべき」というものです。

 それではなぜこのような結論になるのか、以下、説明していきたいと思います。
 説明には、「●維持に関する2つの方向性」で示した、「オプチマム」と「モデレーション」を対比させると分かり易いので、この2つの維持方法のモデルを使います(別に他の維持方法でもいいんですが、それぞれに名前がついているわけではないので説明しにくいので)。
 

1.「オプチマムを目指す維持方法」について検討してみる

 この維持方法についてのポイント、すなわち、肝心な点、気をつける点、については、すでに「●維持に関する2つの方向性」の中で示しました。
1.栄養素や蛍光管の頻繁な手直し(添加、交換)が必要で、
2.栄養素ごとの添加剤(肥料)も必要となる。また
3.失敗を回避するための定期的な換水が望ましい。 の3つです。

 では、これを実際に実行すると、どのような長所・短所があるでしょうか

 この維持方法は、ADAの提唱する「ネイチャーアクアリウム」が典型例と言えるので、この「ネイチャーアクアリウム」の維持方法を頭の中に思い浮かべながら読んで頂くと、より具体的で分かり易いかと思います。

<短所>

1. まずは、頻繁な手直しが必要という点です。これは当然のことながら、時間と手間がかかる、ということで、「あ〜、もう、めんどくさいがなぁ」から、「あぁ!さぼってたら崩壊してもうたやん・・」に帰結し易いことを意味します。

2. また、栄養素ごとに添加剤を買って揃えなければならないという点も煩わしいかもしれません。 液肥ひとつとってみても、ADAならセット初期用から1年経過後用まで、3種類があり、この他にもカリ分補給用、陽性水草用、植物ホルモン・微量元素などの補給用、鉄分補給用などあり、全部揃えるとなると、取り寄せるのも、出費も、保存も、日々の添加も大変です。これが短いサイクルで必要となるので、煩わしい事が嫌いな人なら「こんなこと、やっとれるかい!」と暴れてしまっても仕方ありません。

3. そして、失敗回避のための定期的な換水が必要なことも、めんどうです。これも、オプチマム アクアリウムを目指すなら、割と頻繁に行われます。週1回ぐらいの換水が標準的でしょう。したがって、私のようなグータラな人間には、まるで週に1回の「行」のように思えてしまいます。ただし、水換えで水がクリアになるのが楽しくて仕方がない、というアクアリストのカガミのような人がいるのも事実です。

4. さらに、「自由度が少ない」という短所もあります。下手に独自の維持手法を混ぜるとうまくいかなくなりがちです。したがって、「ここをこうしたい」というところがあっても、なかなかそうはいきません。たとえば、ある水草の生長を抑えて、色の淡いところを楽しみたいと思っても、それは難しいです。また、頻繁に換水するため、本来、自然の水溜りで起きている微生物の活動も、なかなか観察しにくいです。

<長所>

1. 先ず、最大の長所は、なんといっても、「初心者でも失敗しにくい」という点です。モデレーション アクアリウムのように、水草の調子を読みとって必要な手当てをする、という経験に基づく職人技のようなものは、ほとんど必要ないからです。
 たとえばADAの「ネイチャーアクアリウム」ならADAの勧めているセット方法・維持方法・器具の取り扱いを忠実に実行していれば、そう簡単には失敗しません。失敗するのは、変に独自の工夫を盛り込んだりしたときぐらいです。「ネイチャーアクアリウム」を実践したくて始めたのなら、1から10まで、素直に従いましょう。そうすれば、自動的にきれいな水景ができあがるのが、この方法の良いところです。独自の工夫しても大丈夫なところかそうでないかを判断できるのは、ある程度経験を積んでからです。

2. また、水草の、いきいきとした生長を見られるのも、この方法の長所です。各条件について最適値を目指すわけですから、当然のことながら水草の最も生長している姿に出会えます。
 次々に出てくる若々しい新芽や、明るい光に照らされて輝く酸素の気泡を見て、生命の息吹を感じることができるはずです。

3. オプチマムを目指す方法だから、というわけではありませんが、この方法を推奨しているメーカーの商品には、デザイン的に優れたものが多いです。ADAの製品など、1つ1つが、実によく作られています。これらの製品を組み合わせてでき上がるアクアリウムは、部屋の中で、十分インテリアとして機能してくれます。

<オプチマムについてのまとめ>

 このように、オプチマムを目指す維持方法では、手間やお金がかかるという欠点があっても、初心者が失敗しにくい、そして水草のイキイキした姿を見れるという、すばらしい長所があります。
 

2.モデレーションについて検討してみる

 この維持方法について前回示したポイントは以下の通りです。

 1.オプチマムに比べると、手直しと手直しの間隔が長くなる
 2.どの条件が下限値に近づいているのかは、水槽内を良く観察して、経験的に読み取ることが肝要であり、読み取った条件ごとに手直し、手当てを行うことになる。
 3.そのためには、栄養素ごとに添加できる製品が必要になる。
 4.また、収容している生体によっては最適値と下限値の幅が狭いものもあるので、その場合は手直しと手直しの間隔を狭くするなどの応用が必要となる。
 5.注意が必要なのは、大磯砂やレイアウトの岩石から溶出するもののように、「添加」ではなく「除去」という手当てが必要な条件も存在する点である。

 これを実行すると、どのような長所・短所があるでしょうか。

<短所>

1. このモデレーションを狙う維持方法では、多くの場合、一度水槽に手を加えてたら、次の手直しが必要になるまでに、けっこう時間的間隔があきます。すると、ややもすると、水槽の観察を怠ってしまって、「あ、忘れてた! 水槽どうなってるやろ?」なんて状態になりがちです。
 また、水槽に手を入れるのがおもしろくて仕方がない、アクアリウムを始めたばかりの人には、もの足りなく感じる方法でもあります。

2. 次に、この維持方法の致命的な短所は、水槽の中の様子から、不足しかけている要素を経験的に拾い出し、先手先手で手直しして行かなければならない点です。すなわち、経験がものいう維持方法なので、指導してくれる人がいないと、初心者には難しいです。ネット上で寄せられている初心者の方の質問に対して、よく、適切でない回答が返されているのを見掛けるので、「ネット上で相談しながら」という方法も難しいと思います。

3. 栄養素ごとに添加剤を揃えておかなければならない、という面倒くささは、オプチマムの場合と同じです。モデレーションを狙う維持方法をとっていながら、この点を見落としている記述をよく見かけますが、大切な点です。たとえばデナリーなら、鉄分補給剤、活力活性剤、ビタミン・ミネラル補給剤、ヨード分補給剤などが用意されています。
 しかし、このモデレーションを目指して維持しているアクアリストは、多くの場合中級者以上であるので、自分で必要と思う製品を園芸用などから調達している方が多いのが現状です。たとえば、園芸用の、ハイポネックス開花用をリン・カリ補給用に、またメネデールを鉄分補給用に、有機酸の補給に木酢液を、と言う具合です。これらの選択は、失敗すれば、水槽中コケだらけということもよくあるはなしです。したがって、初心者には不向き、と言わざるをえません。

4. また、手直しをしてから次の手直しが必要になるまでの時間的間隔が、条件によって短くなったり長くなったりするので、これを見極めるのも難しいです。これも経験と知識に大きく関わってきます。たとえば、換水一つをとってみても、ある種の水草は久しぶりの換水で、活性を取り戻して盛んに光合成を始めるのに対して、クリプトコリネの気難しい種類などは一斉に溶け始めたりします。クリプトコリネが入っているのなら、手直しと手直しの間隔は短い方が良いことになります。ただし、底床掃除を取り上げてみると、クリプトコリネなら、その間隔は長い方が良いのです。
 このように、その手直しと手直しの間隔は、その条件ごと、環境ごとに判断しなければならず、覚えるのもめんどうかもしれません。

5. 次に、水槽で不足しているものを添加することばかりに注意を払っていて、水槽内で過剰になってくるものを取り出す、という視点が抜け落ち易いのも、この方法の欠点です。
 過剰に収容されている魚のせいで蓄積した硝酸塩類を除去することについては、大抵どこでも注意されているので、忘れてしまうことはおそらく無いでしょう。しかし、流木や岩石から溶け出してくる微量成分や、大磯砂などの底床から溶け出してくる微量成分については無頓着な人がとても多いです。
 この「溶け出してくるもの」については、換水で取り除くなり、ゼオライトなどに吸着させて取り出すなりしないと、水草の生長に影響するレベルまで、いずれ蓄積してしまいます。
 ただ、どのようなものから、どのような成分が、どのくらいの時間をかけて、どのくらい溶け出してくるのか、また、どのくらい蓄積すれば、どのような影響がでるのか、などにつて、ほとんど情報が流れていないのが現状です。この問題点に気付いてさえいない人が多いせいかもしれません。
 たとえば、半年以上水換えをせずに維持できていた水槽で、なぜかある日水草の生長が止まってしまった、なんて場合は、水中の特定の成分の蓄積が水草の限界線を超えた可能性が高いです。対策のために肥料などの添加をしてみても効果がなかったのに、換水してみると、とたんに生長が開始された、という場合には、おそらくそれが原因だったとわかります。
 このように、モデレーションを狙う維持方法には、ある程度の経験を積んだ人でさえ見落としてしまいがちな落とし穴もあります

<長所>

1. この方法で維持していく上での最大の長所は「勉強になる」ということです。
 オプチマムを目指す維持方法なら、ADAやデュプラの勧める維持方法を忠実に実行すれば、自動的に成功に導いてくれるのに対して、モデレーションを目指す維持方法を実践すると、必ずと言っていいほど失敗をします。それも1度や2度の失敗ではすまないはずです。情報が整理されてない、そもそも流れていない、といったところにも原因はあります。しかし、失敗しながら具体的な情報を獲得して行く過程が、たいへん勉強になるのです。

2. 次に特徴的なのが、「お金が掛からない」という点です。経験を積むと、自分で必要なものを色んなところから調達、流用できます。アクアリウム専用の高いものを買わずにすますこともできます。これは大きなメリットです。

3. 「手間を省けるセットをし易い」点も長所です。前出のクリプトコリネなどのように、少しクセのあるものなどを使わないようにしたり、水中に微量成分を溶け出させるものを極力排除するなどして、手直しと手直しの間隔を長くとれるセットが自分の思うままにできます。このような水槽だと、忙しい人でも維持できます。また、お金の節約にもなります。

4. また、これらを言い換えれば、「自由度が高い」ということもできます。知識があれば、どの用具と生体をどのように組み合わせると、どのくらいお金と手間を浮かせる事ができるかもわかります。そして、水草や魚の生長についてもある程度コントロールできるようになります。トリミングの回数を減らしてレイアウトの最も美しい状態をできるだけ長く保持することもできます。最適値を狙うために必然的にトリミング回数が多くなるオプチマムとは対照的な特長です。また、たとえば、盆栽のように、水草の生長をあえて抑制し、その美しさを楽しむと言ったことも可能です。リスノシッポなどを、栄養は少し足りないが枯れはしないという、微妙な状態に保ち、淡い色をレイアウトに加えるというような難しいことも実現できます。

<モデレーションについてのまとめ>

 このように、モデレーションを目指す維持方法では、知識と経験が要求され、失敗する可能性も高くなりますが、それは裏を返せば、「勉強になる」ということであり、経験を積めば、お金と手間のかからない、美しい水草水槽を維持できるようになります
 

3.どの維持方法が優れているか

 ここまで検討してきた2つの方向性の維持方法のほかにも、もちろんその中間的な維持方法などもあるわけですが、果たしてどの維持方法がもっとも優れているのでしょうか。

 これに対する答えには、おそらく厳しい意見の対立があると想像できます。典型的なのは、オプチマムを目指す維持方法では代表格的な「ネイチャーアクアリウム」の手法と、それに批判的な「反ネイチャー」の立場の手法(モデレーションとまでは言えない)の対立です。

 これに対する私の意見は次の通りです。

・ 初心者のうちは、「オプチマムを目指す維持方法」で。
 特にその具体的な手法までもはっきり示しているADAの勧める「ネイチャーアクアリウム」の方法にしっかり従うこと。
 そして、
・ 基本的な技術・知識・経験を獲得したなら、オプチマム(ネイチャーアクアリウムなど)から、徐々にモデレーションを維持する方法へ移行させて行くのが良い。
 

 その理由については、既に検討した両方向性の長所・短所からお分かりのことと思います。

 理由1 ;
 いきなりモデレーションに取り組んでも経験不足からなかなかうまくいかないが、例えばADAの勧める維持方法を忠実に実行すれば、理屈がわかってなくても、自動的に成功へと導いてくれる。理屈はその過程であとから学べば足りる。

 理由2 ;
 最初からモデレーションを目指し、失敗を重ねることで勉強していけば良い、という考え方もできるが、実際、その方法ではアクアリウムの世界に新しく入ってくる人が少なかった、という事実がある。「ネイチャーアクアリウム」のある程度の確立に伴って、新規に水草水槽を始める人が増えたのは間違い無い。「ネイチャーアクアリウム」で水草水槽を始めて、そして次にモデレーションの方法を学べば足りる。今現在、そのような過程をたどってきた人も多いはずである。

 他にも理由はありますが、この2つが大きな理由です。

 したがって、

・ 初心者    →  オプチマム(e.g..ネイチャー)
・ 経験を得たら → モデレーション 

という図式のように、使い分けることを勧めます。


 

4.余談

 「では、すいらくさんちは、どうしてるの?」というご質問も多いので、私の水槽の現状を紹介しますと・・・

 「水草水槽」と言える水槽は、今うちに60センチのものが数本あります。私は水草水槽は好きですが「水草そのものが好き」と言うわけではないので、それらは主人公が魚だったり、エビだったり、おたまじゃくしだったり、水棲昆虫だったりします。

 そして、こられのうちどれかを、モデレーションを狙う維持・またはその応用した維持の水槽にしたら、別の水槽はレイアウトも維持方法もネイチャーにしてみたり、レイアウトをダッチでそして維持はモデレーションで、というようにしてみたり、あるいはアクアートの手法を試してみたり、と、1年から2年サイクルでそれぞれ変更していっています。

 なぜこのようにバラバラなのかと言うと、こうすれば、それぞれの維持方法の「良いところ」「悪いところ」が、よく見えてくるからです。特に、並んで置いている水槽は、できるだけ同じ内容にならないようにしています。もちろん、同じ砂に同じ草を入れて、肥料だけを変えてその差を確かめる、という実験的なことをすることもあります。
 いずれにしても、並んで置いてあるだけで、その比較から色んなことが見えてくるのがおもしろいのです。
 他に、バランストアクアリウムを作ったり、魚などの繁殖用水槽を楽しむこともあります。
 したがって、私は「ネイチャーアクアリウム」信者ではないです。しかし、かといって「反ネイチャー派」でもないですね。「ネイチャーアクアリウム支持者」という感じでしょうか。すべての維持方法について“是々非々”のスタンスです。

 ちなみに01.02.04現在、うちの60センチ水槽3本は、1本が「マレーヤ」を敷いたバリバリのネイチャー(レイアウト&維持)で、もう1本がアクアート(維持はモデレーション)、 そして残りの1本が上部フィルターのみで維持している実験的なレイアウト、となっています。
 ネイチャー水槽では特に何も変わったことはしていませんが、アクアート水槽では今まで使ったことの無かった砂の使い勝手の実験と、CRSとビーシュリンプとの掛け併せ、使ったことの無かった植物活性剤の実験もしています。また、3番目の上部フィルター水槽ではCRSの繁殖と、上部フィルターで育つ草を確かめる実験などを同時進行させています。
 こんなところで、うちの水槽の様子が想像していただけるでしょうか。 01.02.04

 



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