■GOOD AQUA■
維持に関する2つの方向性
1.水草水槽の維持の方法は、どれが正しいのか水草水槽を維持する方法については、様々な本や色々なホームページに書かれています。そして、その書かれている具体的な方法も、実に様々です。初心者が読むと、「いったいどれが正しいのか・・・?」と悩んでしまうかもしれません。
では、本当のところ、どの方法が正しいのでしょうか?実は、「どの方法も正しい」のです。聞きかじりや中途半端な知識で書かれたものは問題外ですが、大抵の本やホームページに書かれている維持の方法は、それを素直に実行すれば、成功へと導いてくれるはずです。
失敗してしまうパターンは、良いとこどりをしようとして、あちこちで仕入れた知識を組み合わせて実行した場合でしょう。
では、なぜ、一見まったくことなる方法にもかかわらず、「どの方法も正しい」なんてことになるのでしょうか。「どの方法も正しい」という状況は、実にわかりにくいですね。特に初心者にとっては頭が混乱しがちな状況と言えます。その上、いろんなホームページを見て回ると、ある維持方法を支持する立場から別の維持方法を攻撃していたり、擁護していたり、ここのように「どの方法も正しい」なんて言い出すページがあったり(笑)
このような状況を理解し頭を整理するためには、これから説明することを知っておくと良いと思います。なぜ「どの方法も正しい」なんて結論がでるのかについても、すんなり分かっていただけるはずです。
2.水草水槽の維持の方法には、2つの考え方がある
水草水槽の維持方法を、分類・整理するための視点は色々考えられます。換水頻度、CO2の添加の有無、底床の種類など、その水槽のスタイルの数だけ維持方法があるとも言えます(水草水槽のスタイルについては「水草水槽のいろいろなスタイルを知ろう」のシリーズをご参照ください)。
しかし、維持方法を一番スッキリ整理できる視点があります。それは、
「水草の育成に関して、オプチマムを目指すかどうか」 と言う視点です。
この視点から、個々の維持方法を分類すると、次の2つに大きく分かれます。
ア ; オプチマムを目指す維持方法 イ ; 下限値を下回らないように維持する方法(モデレーション)
の2つです。
※オプチマム(optimum)とは、「最適条件」とか、「最適育成条件値」といった意味です。
※モデレーション(moderation)とは、「適性条件」とか、「適度・節度」といった意味です。
3.オプチマムを目指す維持方法
ではまず、アの「オプチマムを目指す維持方法」について説明しましょう。
ご存知の通り、水草の生長には光や二酸化炭素、温度、各種栄養分といった様々な要因が絡んできます。これらは、多ければ良いというものではなく、適正な範囲のものでなければなりません。そして、その範囲のうち、もっとも水草の生長がみられるときの値が「最適値」です。
たとえば、二酸化炭素の添加量について調べるとします。
まず他の条件を一定に保った上で、次に二酸化炭素の添加をします。そして二酸化炭素の添加量を0mg/lにするとリシアが枯れ、20mg/l添加したときはゆっくりと生長し、35mg/l添加するともっと生長がみられたが、36mg/lを超えると生長が逆に鈍り始めた、という結果が得られた場合、その条件下での最適値が35mg/lであると分かります。
ただし、この最適値は、条件それぞれがお互いに影響し合って決まるので、たとえば「リシアに最適なCO2量は〜mg/lである」というように、絶対値で表せるものではありません。このような水草の生長に関わる各条件のバランスを考慮しながら、それぞれの条件を、最も水草が生長する値に保とうとする維持方法が、「オプチマムを目指す維持方法」です。
そうは言っても、実際に水草水槽を家庭の中で維持するにあたって、育成条件の1つ1つについて最適値を調べることは事実上不可能です。
また、たとえ最適値を得られることができたとしても、光源の光量の自然減、水草や魚自身の成長、外気温の変化など、それぞれの最適値はどんどん変化していくので、一時点で測ることにあまり意味もありません。
その上、たとえば窒素・リン・カリを最適値になるように水槽に投入したとしても、植物が次々と吸収していくわけです。したがって投入したと同時に最適値から離れ始めているわけで、最適値を常に維持し続ける、ということは至難の技となります。(余談ですが、液肥を点滴セットのようなもので添加する商品は、もともと、投入の手間を省くという役割よりも、この最適値を維持するという役割を果たすものです)そこで、できるだけ各条件の最適値=オプチマムを維持するための具体的な方法として、次のようにするのが一般です。
すなわち、最適と思われる値よりも少し上回った量を与え、明らかに上回りすぎているときは少し取り除く。そして、最適値を若干下回ったときには再添加を行う。ということを、頻繁に少量ずつ繰り返す、という方法です。
この具体的な方法は、栄養分の1つである「カリ分」の与え方を例にすると分かり易いので、これを大雑把なグラフにしてみましょう。
まず、最初の添加点です。「オプチマムを目指す維持方法」では、まず最適値よりも少し多目に投入するのが普通です。そして、その栄養素は、添加直後から水草に消費されて、最適値からやや不足したところまで減ってきます。
そこで、その栄養素を追加し、再び最適値よりやや多目の値に戻します。
もちろん、このような方法を実行するためには、上の図のように最適値を割り込んだ栄養素のみを添加できるように、栄養素毎に添加できる製品を揃えておかなければなりません。以上から、この方法を採ったときの栄養素の添加のポイントを2つ導き出せます。
(1)最適値と思われる量よりも少し多目に添加する
(2)再添加は「水草に消費されたであろう量」を、栄養素毎に判断して頻繁に添加するこれらを逆に考えると、今度は「失敗し易いポイント」を導き出せます。
(1)最適値よりも、「少し」ではなくて「だいぶん」多目に添加して、栄養過多にしてしまいかねない
(2)実際は最適値を下回っていないのに再添加してしまい栄養過多になる危険性がある
(3)「水草に消費されたであろう」栄養素の種類と量が判断できず、栄養不足又は栄養過多にしてしまう可能性がある
このように、失敗の大部分が栄養過多によるものであることがわかります。さて、ここまで栄養分を例にとってみてきましたが、他の条件についても同様の考え方です。
例えば光(蛍光灯)です。蛍光管は使用と同時に光量の低下が始まります。したがって、最適値を下回ったときには速やかな交換をすべき、ということになります。また光質についても、水草の生長がより多くみられる波長、といものを最重要視することになります。CO2の添加についても、水草の生長が最もよくみられる「最適値」を目指すことになるので、自然発生する分に加えて、人工的に可能な限りの量を加えることになります。この場合、栄養素の添加での換水にあたるものが、夜間に行う「エアレーション」ということになります。
ところで、ここまで丁寧に読まれた方はお気付きかと思いますが、ADA社、デュプラ社などは、このオプチマムを目指す維持方法を勧めているメーカーに分類されます。(ただし、当のメーカーの社員一人一人にその自覚があるかどうかは疑問ではありますが・・・)
これらのメーカーの商品ラインナップ、及び、その推奨する水草水槽の維持方法は、もちろんオプチマムを実現し易いものとなっています。
具体的には、栄養分を添加する商品なら、初期使用の場合の量と換水時の使用量を分けて表示しているのが普通です。また、栄養素ごとに添加できるように、栄養素ごとの製品を作る、ということになります。
推奨している維持方法についても、オプチマムを目指す場合に皆が失敗し易いポイントを考慮して、具体的に提示しています。
その代表例は、定期的な定量換水の推奨です。「週に1回、1/3量」というような換水です。
また、商品の使い方にも工夫が凝らされています。たとえば、
(1)初期の頃に起き易い、最適値を大きく上回る栄養素を添加してしまう失敗については、初期の換水の頻度と水量を増すように指示しています。
(2)実際は最適値を下回っていないのに再添加してしまって栄養過多になる危険性についても同様で、致命的な影響が出る前に、週に1回という早いペースの換水で対処するように勧めています。
また、(3)「水草に消費されたであろう」栄養素の種類と量が判断できず、栄養不足又は栄養過多にしてしまう可能性があることについては、ADAなら、水槽セットからの月数毎に添加する商品を分けて用意しています。
- ※ ちょっと込み入りますが・・
ここで、「換水するなら総合的な栄養添加剤だけで足りるのではないか」、という疑問がでてくるかと思います。この点については、栄養素毎の製品を販売しているのは、もともとオプチマムを目指す、という明確なビジョンが有ったようではないこと、また、水槽内で必要とされている栄養素のすべての種類が判明しているわけではないこと、それゆえすべての栄養素を全種類用意することが不可能であること、の3つが主な理由のようです。
上の例でいえば、カリ分が最適値を大きく下回った時点でも、栄養素によってはこの時点ではまだ最適値を上回っているものもあります。そのような状況下で総合的な液体肥料などを投入すると、カリ分が図にあるように適正な値になったとしても、カリ分ほど減ってはいなかった他の栄養素は、総合的な栄養添加剤によってさらに過剰になり、最適値から上方へどんどん外れて行ってしまいます。
そこで、一旦、換水によって水中のすべての栄養素を3分の1なり4分の1なり汲み出して「リセット」した上で、おそらく不足しているはずの栄養素、たとえば、このカリ分や鉄分を、改めて添加する、という手順になるのです。
カリ分 栄養素A 栄養素B
添加直後
110%
110
110
←最適値を少し上回るように添加
1週間経過時
80
80
100
←この時点ではBは最適値を下回っていない1/4換水
すると・・・60 60 75 ←「これだけ換水すれば全部が下回るであろう」と思われる水量&頻度の換水で取り除く 総合肥料を
添加すると110 110 125 ←換水後に総合的なものを添加するとオーバーするものがでるので栄養素毎の商品が必要になる
以上のように、オプチマムを目指す方法で、うまく水草水槽を維持するには、
(1)栄養素や蛍光管の頻繁な手直し(添加、交換)が必要になり、
(2)栄養素ごとの添加剤(肥料)も必要となる。また
(3)失敗を回避するための定期的な換水が望ましい。
という結論が出てきます。
4.下限値を下回らないように中間値を目指す維持方法=モデレーション
次に、対照的な方法、「下限値を下回らないように維持する方法」を見てみましょう。
水草は、育成条件が最適値を下回ったからといって、直ちに枯れ始めるというわけではありません。「もうこれ以上は我慢できない!」という限界=下限値を割りこんだときにはじめて枯れ始めます。
もちろん、この下限値も、水草の生長に関わる様々な条件の相互の関係で変動するので、絶対的なものではありません。この水草の生長に必要な各条件を、下限値を下回らないように注意し、水草の適度な生長を保ちながら維持する方法を、「下限値を下回らないように維持する方法」ということばで表しています。
ここでは、この方法をオプチマムに対応する言葉として、「適度」を保つという意味でモデレーション(moderation=適度・節度)と呼ぶことにしましょう。
この、モデレーションを目指す維持方法の実際は、次のようになります。
すなわち、ある条件を最適値またはその前後の値に調整したあとは、下限値に近づくまで水槽内の変化に任せ、下限値を割り込みそうになったときに再び調整する、ということの繰り返しになります。
モデレーションの場合、オプチマムに比べて、添加と添加の間隔が広くなる傾向があります。但しこれは育成している生体によって異なります。
この維持方法で一番の問題は、下限値に近づいていることをどのように読み取るか、という点です。最適値は、水草の生長が最もみられるときの値ですから、知ることは比較的容易です。しかし下限値は、他の育成条件に左右されることに加えて、水草が枯れ始めてやっと知ることができるので、気付いたときには手遅れということもあります。したがって、このようなことを定期的に繰り返すことはできません。
実際には、水草などの様子から、経験的に読み取って、早目に対処するという方法が一般です。モデレーションを目指して維持する場合の栄養素添加のポイントは2つあります。
(1)水槽をよく観察して、下限値に達する前にそのサインを読み取る
(2)収容している生体の数や種類を考慮して、多過ぎず少な過ぎない量を添加する逆に考えると、「失敗し易いポイント」がわかります。
(1)観察を怠ったり、下限値が近づいたサインを読むことができなかったりして、栄養不足にしてしまう危険性がある
(2)収容している生体に負担をかけるような大量の添加を一度にしてしまったり、添加が少なすぎてすぐに1の危険を招いてしまう可能性がある(1)については、やはり経験がものをいいます。頂葉の白化や、葉脈の変色、ミジンコの種類、葉形の変化や水の色など、様々な要素を総合して判断する事になります。
(2)については、典型的なのがクリプトコリネ水槽です。クリプトコリネ水槽では、このモデレーションに保つ維持方法が多いのですが、次の添加までの間隔を伸ばそうと、横着をして多目の添加をしたりすると、葉がみんな溶けてしまい、「後悔先に立たず」ということわざが頭の中をグルグル回る、という状態に陥ります。また、アマニアの仲間、エウステラリスの仲間、ピンネイトなどが入っている場合に、急激な添加によって頂葉の縮れを生じさせてしまうことがあります。「最適値と下限値の間隔が狭いものもある」と認識しておかねばならないでしょう。では、栄養分以外の条件についてはどうでしょうか。
光の条件については、栄養分の添加と同じパターンとなります。すなわち、光量が最適値付近から徐々に下限値に近づいた段階で、蛍光管や電球の交換を行うことになります。実際には、蛍光管ならちゃんと点灯しなくなるまで使い続けられることになります。光質は、ある程度光合成を促進するものであれば、それほど気にすることはないでしょう。
CO2の添加については、どの程度の値を目指すかによりますが、添加の方法上、一定の値に保たれる場合が多いでしょう。この、モデレーションを目指す維持方法は、日本で水草水槽が趣味として確立された当初から採られてきた手法と言えます。また、ヨーロッパの軟水を得にくい、つまり換水を頻繁に行うのが難しい国でも、同じ方法が主流となっています。
この方法によれば、下限値に近づいた条件についてのみ、手直しをしていくわけですから、たとえば栄養分の添加なら、当然栄養素ごとに添加できる商品が必要になります。
また、この方法によるときに問題になるのが、条件が下降線を描いて下限値に近づくのとは反対に、上限値に近づく条件がでてくる点です。
具体的には、この方法では従属的に水換えの間隔も広くなるため、レイアウトに用いている流木や岩石から溶け出してくる成分や、枯葉からでるなかなか微生物に分解されないリグニンなど、蓄積して上限値に近づくものです。
また、よく見落とされるので、特に注意が必要なのが、大磯砂の類です。酸によってカルシウム分を取り除いたということで安心してしまいがちですが、大磯砂をよく見てみると、様々な岩石が混合しているのが分かるはずです。その1種類1種類から、様々な成分が色々な割合で、極少量ずつ徐々に水中に溶け出してきます。これを確認し易いのが、GHの値です。まったく換水せず、吸着もさせずに水槽を維持していると、このGHの値が上昇してきます。
このような水中に蓄積してくるものについては、活性炭やゼオライト、土類などを用いることで吸着させて対処するか、換水で水槽外に排出することになります。
このような溶出物などについては、下限値に近づいた条件を交換や再添加で元に戻すのとは異なり、水槽外に取り出すという方法で元に戻すという、逆の作業が必要となることに注意しないといけません。さて、この方法にそった商品構成をしている代表はデナリー社などです。各条件について最適値を目指すオプチマムとは異なり、維持のために手をかける間隔をある程度長くとるモデレーションを目指した維持を提唱しています。
デナリー社の場合なら、底床は最低4〜5年はひっくり返さないことを前提に作られています。具体的には、肥料はピートなど分解に長期間かかるものが含まれています。また、底床は、上述の微量物質の溶け出しを避けるために、水中へ物質をほとんど溶出させない石英でできた製品となっています。添加する栄養分については、主要栄養素の他にビタミン類など、必要に応じて添加できる製品ラインナップとなっています。以上、各育成条件が下限値を下回らないようにモデレーションを目指す維持方法のポイントをまとめると、
(1)オプチマムに比べると、手直しと手直しの間隔が長くなる。
(2)どの条件が下限値に近づいているのかは、水槽内を良く観察して、経験的に読み取ることが肝要であり、読み取った条件ごとに手直し、手当てを行うことになる。
(3)そのためには、栄養素ごとに添加できる製品が必要になる。
(4)また、収容している生体によっては最適値と下限値の幅が狭いものもあるので、その場合は手直しと手直しの間隔を狭くするなどの応用が必要となる。
(5)注意が必要なのは、大磯砂やレイアウトの岩石から溶出するもののように、「添加」ではなく「除去」という手当てが必要な条件も存在する点である。
となります。
5.まとめ
以上、別々の方向性をもつ維持方法を2つ見てきました。このようにそれぞれに目指す方向性が違っていれば、その手法も、その製品を作っているメーカーの商品構成も違っていて当然と言えるでしょう。
前者の方向性で維持された水槽を「オプチマム アクアリウム」とすれば、後者は「モデレーション アクアリウム」となります。
では、この「オプチマム アクアリウム」と「モデレーション アクアリウム」、どちらが優れた方法と言えるでしょうか?または、私たちはどちらを目指すべきでしょうか?
オプチマムを支持する立場から、モデレーションを、「水草の生長が鈍った水槽」と批判する事は簡単です。逆に、モデレーションを支持する立場から「頻換水や余分な商品の購入を勧めている」と批判する事も簡単です。
しかし私は、それぞれ一長一短があるのでそう簡単に結論は出せない、と思っています。
この点については、また稿をあらためて、じっくり検討してみたいと思っています。ちなみに、「オプチマム アクアリウム」とは、もともとこのような育成上・維持上の方向性をいうのであって、特定の国のアクアリウムを指すことばではありません。
ただ、ドイツのアクアリウムや、水槽にフタをつけないオープンアクアリウムを「オプチマム アクアリウム」ということばであらわしていることもあるようです。