Endler's Livebearer
水草水槽の中の稚魚


4.エンドラーズ ライブベアラーのブリーディング

遠藤君(=エンドラーズ ライブベアラー)が繁殖能力をもち始めるのは、早くて生後1ヶ月半あたりからです。2ヶ月経過すれば大多数の個体が生殖能力を備えます。ただし、水温を低めに設定したり給餌の頻度を下げていればもう少し長くかかります。逆に言えば、高め&高頻度にしていれば成長を促進させられる、ということです。必要があればこういった要素である程度のコントロールも可能です。

2ヶ月を過ぎたあたりから、メスには「モテる個体とそうでない個体」の差がはっきりとあらわれてきます。モテるメスは、その周りに3匹程度のオスを常に引き連れていて、餌を食べている最中でさえオスの猛烈なアタックを受け続けることになります。

←メスの妊娠は、、お腹の後ろの部分が角ばってくるためすぐに分ります。
グッピーの大きな個体だと、この部分に子供の目が透けて見えたりしますが、遠藤君は体が小さいので、透けて見える目の金環で判断するのは難しいでしょう。お腹の形で判断するの方が確実だと思います。

子を産んだメスの目つきが険しくなるのは人間と同じです。   (うそ)

 遠藤君の出産の場合、このページの最上部にある画像のような水草がたくさん植わった水槽で飼っていれば、人間が何ら手助けをしないでも、最終的には何匹かが生き残るものです。

 ただ、“本当に何もしないで”いると、生き残る数はごくわずかです。これはよく考えてみれば当然のことです。もし遠藤君1ペアが、その一生のうちでこの世にたった4匹残すだけで、次の世代の遠藤君の総数は2倍に膨れ上がります。そしてその4匹がまた同じように子を残すとすると、総数は8匹になってしまいます。そしてその8匹が2倍の数の子供を残し・・・と、繰り返されれば、世界が遠藤君で埋め尽くされるまでにたいした時間はかからないでしょう。すなわち、遠藤君1ペアがその“一生のうちに”2匹を残すことができれば、種として生存し続けるのには必要にして十分、ということです。それより多くても少なくてもいけないわけです。
 したがって、一生のうちに恐ろしいほど多くの稚魚を産み落とす生物である遠藤君の場合、産まれた子供のほとんどが大人になる前に死んでしまうのが“自然な”状態ということです。

 この点、水槽の中の場合、外敵がいないためもう少し多くの個体が生き残りますが、ほんどの個体は大人になる前に自然に淘汰されて死んでしまいます。たとえばこのページ最上部の画像には30数匹の稚魚が見えていますが、このぐらいいても、何も手助けしなければ1匹生き残るか残らないか、というレベルです。
 (ちなみに、上の画像には30匹以上の稚魚が写っています。画像が小さいし真正面や真後ろの姿も写っているので正確に数えるのは難しいと思いますが、お暇な方は上の画像で数えてみて下さい。 正解はこちら→

 よって、もっと多くの個体を効率よく得たいのならば、何かしらの工夫をする必要があります。少しの工夫で格段に生存率が高くなるのは、グッピーを繁殖させる場合と同じです。定期的に餌を与えるだけでも数倍の個体数が生き残るようになります。そういう意味で、遠藤君のブリーディング(繁殖)は簡単な部類に入ると言えるでしょう。

 以下は、遠藤君やグッピーのブリーディングにおいて私が実践している方法です。

 

(1) 産卵箱

 産卵箱を使って産仔の段階から子供を隔離するのは、一番手軽で確実な方法だと思います。妊娠したメスを入れておいて、出産したら中の仕切り底とメスを取り出し、あとは稚魚を普通に飼育するだけです。

ただし、産卵箱1つに収容できる稚魚の数はあまり多くありません。過密にしていると稚魚が病気にかかりやすくなりますし、成長のスピードも鈍くなりがちです。
したがって産卵箱では、殖やせる数が限られています。


(2) プラケース

 一度にもっと多くの稚魚を育てたい場合は、プラケースを使っています。

 プラケースに、ウィローモスやマツモ、アマゾンチドメグサ、アマゾンフロッグピットなど水の浄化に優れた水草を入れ、そこに元の水槽の飼育水を満たすだけで飼育を開始できます。20匹も入れればけっこう混み合ってしまう産卵箱に比べ、プラケースなら3.5リットルの小さなものでも50匹や60匹は余裕で飼うことができます。

 ただし、プラケースを使う方法は、きちんとすでに立ち上がっている水槽が別に存在する場合にのみ有効な方法です。と言うのも、プラケースにはフィルターを着けないので、水の浄化の大部分が水草と飼育水だのみにならざるをえません。水草は、買って来たばかりの水草でもそれなりに働くのですが、たいていは能力不足です。水草は新しい環境に適応するのに必死で水の中のものを消費するどころではないのでしょう。また、水も蛇口から出たばかりの新水ではダメです。すぐに水が傷んでしまいます。したがって、水草も飼育水も、すでに立ち上がっている別の水槽でしっかりバクテリアを含んだものを使います
 もちろんまったく新規にプラケースで立ち上げることも可能なのですが、そうなると最初は浄化バクテリアの量が足りないため魚も少ししか収容できません。しかしそれならば、産卵ケースで用が足りてしまいます。わざわざプラケースを使う必要がありません。あるいはプラケースの使用にこだわらず、フィルターを着けやすい水槽を活用する方が良いでしょう。
 また、プラケースを使う方法は、強制的にフィルターで水を浄化している水槽に比べれば自ずと飼育できる個体数が限られてきます(とは言っても、それは相当の数ではあるのですが)。したがって、稚魚の数が増えたり、成長して大きくなったりすれば、水量の多いプラケースに入れ替えていく必要も出てきます。
 さらに、プラケースでうまく飼育するためには、バクテリアや水温・光量・給餌などの管理の基本を理解できていなければなりません。器具による補助が無いからです

 よって、プラケースを利用するこの方法は、管理の知識や他の水槽の存在などが前提として備わっている場合に限り、手軽で安価で効率的な方法と言えるでしょう。

成長スピードを上げたい場合は、このようにブラインシュリンプの「皿式」と隣り合わせで設置します。こうしておいて、手が空いたときにピペットでブラインを与えてやれば給餌回数が増えるのでその分だけ成長をはやめられます。
ただし、この方法では急激な水質の悪化に要注意です。浄化バクテリアの能力を無視してブラインを与え続けると、プラケースの中がヒドラだらけになってしまうこともあります。ポイントは注意深い観察とマメな換水です。換水はプラケースごと洗面所に持っていけば簡単です。また定期的に換水していればブラインを塩水ごと与えても大丈夫です。遠藤君は給餌のたび30回や40回ぐらい塩分が入っても十分に耐えられます。

魚が増えて容器が手狭になってきたならば、もっと大きな容器に移し替えます。この際、魚と水草の量のバランスがそれまでと同じになるように、必要ならば水草を足すのが失敗を避けるポイントです。

冬場は特に保温の方法に工夫が必要ですが、上部フィルターを着けている水槽があればその上に載せたり、あるいは冷蔵庫の放熱板の近くに置いたりすることで安定した温度を確保することが可能です。メインの水槽にひっつけるようにして置くだけでも保温の効果があります。


(3) 専用水槽

 本格的に大量に殖やすならば、やはり専用水槽を用意するのが良いでしょう。総合的にみて維持しやすいです。しかし、実際のところ家庭で大量に殖やすことは、まず無いはずです。殖やしたところでその増えた分の扱いに困ってしまいますから。
 私がブリーディング専用に水槽をセットするのは、ショップから殖やすのを頼まれたときぐらいです。入荷が少なく高価な魚や水草が入ったとき、「これ、タダで持って帰ってええから、その代わり、殖やした分を持って来て安く売ってね。」と頼まれることがときどきあるのですが、そういう大量かつ効率的に殖やす必要があるときのみ設置するぐらいで、ふだんは上述のプラケース止まりで用は足りています。よって、このあたりはあくまでも「こういう方法もあるんだなぁ」というレベルでお読み下さい。

種親が1ペアしかいないような場合には、給餌のしやすさなどを考えて小さめの水槽を使います。その際、水温の変化が少なくなるように周りを発泡スチロールで囲ってしまいます。
フィルターは小型で扱いやすい投げ込み式か外掛け式か内部式のいずれかを使います。60センチ水槽なら上部式がベストでしょう。

フィルターの吸い込み口には、必ず目の細かいスポンジを着けます。稚魚が吸い込まれるのを防止するだけでなく、稚魚には頻繁に細かい餌を与えることになるので、それが吸い込まれるのを防ぐためにも重要な手当てとなります。

また、私はこういう水槽には必ずスネールを投入します。メダカの類いをブリーディングする場合、砕けて食い切れなかった餌を放っておくとそれが針病などを引き起こしてしまいます。よってスネールに食べさせ分解の促進を図ります。
さらに、こういう水槽では硝酸が蓄積しやすく、水が急激に酸性になることが珍しくありません。よって、中和のために珊瑚の欠片を入れています。

残り餌はスネールでなくエビに任せることも考えられますが、実際のところ、稚魚がたくさんいると、中にはなぜかエビを突付くことに執着するやつが現れたりします。すると周りの稚魚もその影響を受けて一緒に突付き始めたりします。そうなると隠れる場所がないエビはいずれ死んでしまいます。
よって、そうなる可能性は高くはないですが、私はエビよりもラムズホーンなどのスネールを多用しています。

 以上のような方法をうまく使い分ければ、購入した遠藤君がたとえ1ペアしかいなかったとしても、水槽に群泳させられるほどの匹数まですぐに殖やすことができるはずです。


 あと、産卵箱で産ませる場合は別として、プラケースや専用水槽を使う場合には「どうやって稚魚を採取するか」という問題が残っているはずです。
 しかし、遠藤君の場合は他の魚と違って実際上そこはあまり問題になりません。と言うのも、遠藤君は親が小さいため、グッピーのように産んだばかりの子供をその親がバクバク食べるようなことがあまりありません。したがって、親から子供を離すタイミングを計る必要がなく、「産まれたのを見つけたら網で掬う」だけで足りてしまうからです。水草水槽の中で普通に親を飼育していれば、そのうち、産まれたばかりの子供が親と一緒に泳ぐ光景を目にすることになります。そしてその時に網で子供だけを掬い、飼育水とともにプラケースなどに移してやれば良いのです。特別の産仔床を用意してやる必要も、親の食害を避ける工夫を考える必要もありません。また、専用水槽を用意する場合は、親を始めからそこに泳がせておき、子供が産まれたら逆に親の方をメインの水槽に移動させてもOKです。もちろん、稚魚と親魚を同じ水槽で飼い続けても良いのですが、高頻度で餌を与えるブリーディング用の容器に親を一緒に入れておくと、親は肥満でボテボテの身体になってしまいます。よって、子供を効率的に大きくする目的のところには親は一緒にしない方が良いでしょう。

 殖えたエンドラーズは、ぜひ、水草水槽にドバッと入れて群泳させてみて下さい。特にグリーンの水草が繁茂している水槽では美しい光景が目を楽しませてくれるはずです。

05.01.23


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