Endler's Livebearer
エンドラーズ ライブベアラー

 今回は私が「熱帯水草水槽に最も適している」と考える魚種の1つ=「エンドラーズ ライブベアラー」の紹介です。

 「エンドラーズ ライブベアラー(=エンドラーの産仔《魚》)」という名前は、アクアリストの間に今普及している系統がエンドラー教授 (カリフォルニア大 サンタ・バーバラ校 生物進化学)によってベネズエラの北東部から採取されてきた個体群に源を有していることから来ているそうです。私を含め少数のアクアリストは、この魚を親しみを込めて「遠藤君」と呼んでいます。

 この遠藤君、「名前」と「実体」の「名前」の方はとても分りやすいのですが、肝心の実体(正体)の方がよく分かっていません。
 まず、「そもそもこの魚はグッピーの一種なのか、それとも近縁の別種なのか」というところがまだ明らかになっていません。さらに、「もともとの形質がどのようなものであったのか」もよく分かっていません。すなわち、「エンドラーズ ライブベアラーとは、どんな柄や形を持つ魚なのか」ということがはっきりしていないのです。
 その最大の原因は、エンドラー教授が採取して来られた個体群がそのまま系統維持されず、他の人によってすぐにグッピーと掛け合わされ、それが世界中に広がってしまたことにあるようです。グッピーの血が混ざっていない純粋なものが残されていないようなのです。さらに、グッピーの血が混じる前の純粋なエンドラーズ自体もともと様々な形質をもつ魚だったそうで、このことも本来の姿を分りにくくしているのでしょう。
 このあたりのことは海外のサイトに詳しく載っています。興味のある方は一度調べてみて下さい。特にアメリカのサイトには遠藤君を専門に扱っているところが複数存在するので多くの情報を得ることができるはずです。中でもこちらのサイトにはエンドラー教授ご自身が書かれたメールなどが公開されていて情報が盛りだくさんです。たとえば、現在流通している遠藤君が採取された個体群とは形質的に異なっていることや、採取後間もなくグッピーの血が混ぜられてそれが海外に流出したこと、原種には形質に非常に多くのバリエーションが存在したこと、さらに、実際にベネズエラに採取に行った方の考察や、海外の遠藤君のバリエーションなども画像つきで見ることができます。そういった考察や画像をいくつも見ていくと、アメリカなどには、日本で遠藤君の特徴として挙げられている雄の胸から腹にかけての黒いバンドを持たない遠藤君が存在することや、仔にみな同じ柄が出る系統が本来の姿からは離れてた系統であることなど、様々な情報を得ることができます。
 ちなみに先のサイトに載せられているエンドラー教授のメールが事実だとすると、「これこそが原種だ」として維持されている日本での系統を含め、現在世界にいるすべての遠藤君がグッピーとの交雑種だということになってしまいます。

 こういった情報は今でこそインターネットで海外から簡単に入手できるようになっていますが、それが非常に難しかったほんの数年前まで、私は「これこそが原種だ」として売られている遠藤君を手当たり次第に購入しては裏切られる、という経験を繰り返していました。当時、「グッピーの血が入ってない遠藤君、何で手に入れへんねん!」とたびたび憤慨していましたが、情報が手に入るようになった今になって振り返ると、それは当然のことだったわけです。
 インターネットって、ほんとうに便利ですよねぇ・・。

 ・・・と、話しが逸れてしまいましたが、水草水槽のサイトでこの魚を紹介する以上、重要なのは、私が“遠藤君を水草水槽に向く魚として薦める理由”です。

 そこで、以下、4ページに分けて「エンドラーズの特徴」・「メンテナンス魚としての働き」・「エンドラーズの一生」・「エンドラーズのブリーディング法」を紹介し、その中で理由についても書きたいと思います。


1.エンドラーズ ライブベアラーの特徴

遠藤君は、基本的に「ラウンドテール」と呼ばれる楕円形の尾を持っています。ただし、ボトムラインがやや伸長する個体も少なくないようです。
遠藤君はオスもメスも水槽の中で活発に泳ぎ回る比較的運動量の多い種類ですが、特にオスは体が小さい上にグッピーのように大きな尾を持っていないため、ちょこちょこちょこちょこと休むことなく激しく動き回り、じっとしていることがありません。

メスは、他のメダカの仲間と同じく、オスに比べると格段に地味な体色をしていて、体長でオスの2倍くらい、体重で8倍くらいの大きさまで育つものが多いでしょう。

オスは目立つ派手な色を持ちながらも体長が小さいため、水槽内で激しく動き回っていても決して鑑賞の邪魔になりません。かえって水槽に華やかさが増します。すなわち、鑑賞面で優れていると思います。
まずこの点が、遠藤君を水草水槽に薦める理由の1番目です。

次に、遠藤君はもともとは高硬度の高温の水で棲んでいる魚種でありながら、低温や低pHに強く、さらに水質の悪化にも強いところも水草水槽向きだと考える点です。私の家では、水温が一日を通して13度ぐらいになる冬場のプラケースの中でも元気に越冬できているため、ヒーターを使わずに維持する水草水槽やプラケリウム(=プラケースでの水草水槽)のタンクメイトとして重宝しています。

また、浮泥(活性汚泥やフロック)が多く蓄積している水槽に尾ビレの大きいグッピーを入れると病気に罹ってしまう確率が高くなりますが、遠藤君は簡単には病気になりません。水草水槽でも飼いやすい魚です。
加えて、繁殖させることが比較的簡単なため、水草の量や餌の量などとのバランスが成立しやすいという重要な理由もあります。水草や微生物が減ると自動的に遠藤君の個体数も減り、逆に水草が生長するなどして増えると、遠藤君の個体数も比例するように増えていきます。水槽内のバランスの成立に個体数でもって短期間にかつ柔軟に対応できる点は、水草水槽において特筆すべき利点だと言えるでしょう。
遠藤君はメンテナンスフィッシュとしても優れています。トリミング作業などによって葉の上に積もる浮泥などをついばんで掃ってくれる働きの他、オトシンやペンシルフィッシュほどでないにせよある程度のコケ取り能力も持ち合わせています。さらに水面の膜(油膜)については他の胎生メダカたちと同様、強力な掃除能力をもっています。遠藤君を飼っている水槽では水面の膜に悩まされることがまずありません。
遠藤君をたくさん繁殖させていると色々な色彩やタイプの仔が採れます。したがってグッピーのように個体ごとの色彩や色の変化も楽しむことができます。

こちらは→何年か前に飛翔☆さん(屁☆)さんからいただいて維持している系統の個体です。上の系統とはまた違った趣があります。
←こちらはそのメスです。外産グッピーの血が多く入っているのか、他の系統に比べるとメスが外産グッピー並みに極端に大きく育ちます。

こちらも飛翔☆さんから譲り受けた別の系統。うちで維持している別の3つの系統(上で出てきた画像)と比べると背びれが長く伸びるところが特徴的です。→

こちらはずっと以前、パソ通時代に別の方から譲っていただいた系統です。アメリカの遠藤君サイトで見かける個体のように胸の黒い帯が薄く、青色と緑色のメタリックな輝きが美しいタイプです。


このように、系統ごと・個体ごとのバリエーションを楽しめるのも遠藤君の良いところだと言えるでしょう。
 以上のように、遠藤君には水草水槽に泳がせる魚としてふさわしい特徴がいくつも備わっています。よって、私は水草水槽に泳がせる魚として一番のお薦めに挙げているわけです。
 今はまだ主にグッピー愛好家の間で広まっているだけで水草水槽の世界にはまだまだ普及していませんが、機会があるたびに水草水槽のキーパーにもお薦めしているので、何年かのうちにはミナミヌマエビのように水草水槽の定番メンバーになってくれるのではないかと、密かに期待しています。
夜、照明を点灯させた直後の様子です。寝るときは身体を水草にひっかけるようにして休んでいることが多いです。

 

04.12.19


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